小 説

作者 namelessさん


結婚してまだ半年の、新婚期間中である27歳の夏美は、とても困惑していた。同居している舅の谷岡雅治から奇妙な願い事をされるようになったのだ。

雅治の一人息子である夫の武志は29歳で、大手商社に勤めており、海外出張が多くて家を留守がちにしていた。夏美は事務職の派遣社員として、武志と同じ商社で働いていた。身長168cmと女性としては上背があり、かなりの美人でナイスバディの夏美に武志は一目惚れして積極的にアプローチし、半年前に結婚して彼の実家である郊外の一軒家で同居していた。谷岡家は代々の庄屋で、その家は古式の大きな日本家屋であったが、内部は綺麗にリフォームして近代化されており、防音仕様となっていた。

舅である雅治の妻は、息子の武志が社会人になって直ぐに病気で亡くなってしまい、武志が結婚するまでは父子二人で生活していた。息子の武志は何事にも積極的な明るい性格で、身長は175cmあり、がっちりした体型のスポーツマンタイプだが、父親の雅治は正反対で、身長は165cmと夏美より背が低く、線が細く物静かで知性を感じさせる学者タイプであった。夏美が専業主婦になって、実家で同居すると聞いた雅治は大喜びし、夏美を歓迎して色々と気遣った。あまり実家の家庭環境に恵まれなかったため、主婦願望が強かった夏美も、よく出来た嫁として舅の雅治にかいがいしく尽くした。

今年67歳になる雅治は、区役所を60歳で定年退職してから、嘱託職員として5年間働き、嘱託期間が終わって今は悠々自適の年金暮らしとなっていた。現在は特に仕事をしておらず、自宅にこもりがちの雅治は、ボケ防止にと小説を書き始めた。以前、夏美は夫の武志から、

「親父は学生時代、本当は小説家になりたかったけど、母さんとの結婚を考えて、区役所に就職したって言っていたな」

と聞いていたので、昔憧れていた小説の執筆を趣味にするのは良い事だと考えた。以前雅治の部屋へ掃除に入った時、本棚一杯に色々な文学集が並べられているのを見て、かなりの読書家であることが窺えた。

 

「夏美さん、ちょっと頼みがあるんだが…」

 ある日の午後、スエット姿でリビングの掃除をしていた夏美に、雅治が後ろから声を掛けた。

「どうしたんですか、お義父さん」

 夏美が振り返り、笑顔で愛想よく返事をすると、雅治は意外な事を言いだした。

「…ちょっと、素足で私の顔を踏んでくれないか?」

 突然異様な事を言われた夏美は驚き、上ずった声で聞き返した。

「ええっ!?いきなり何をおっしゃるんですか?」

 雅治はやや俯き、恥ずかしそうに顔を赤らめて説明した。

「いや、その…私は昔から谷崎潤一郎みたいに、人間の深層心理を描写した小説を書きたいと思っていたんだが…「富美子の足」で老人が若い女性に素足で顔を踏まれた時、どの様な気持ちだったのか、一度自分で確認しておきたいと思ってね…何しろ、その気持ちが分からなければ、文章で表現出来ないから…こんな頼み事は夏美さんにしか出来ないし、お願いだから、一度私の顔を素足で踏んでもらえないだろうか…」

 夏美は、唖然とした表情で雅治を見つめた。他の男からの頼みならきっぱりと拒絶するところだが、普段から自分を優しく気遣ってくれる雅治の恥ずかしそうな顔を見ると、とても断れなかった。

「…分かりました、お義父さん…それで、どうすればいいんですか?」

 夏美に了承してもらった雅治は、恥ずかしそうな表情でやや俯いていた顔を、上向かせてぱっと輝かせた。

「ありがとう、夏美さん!」

 明るい声で礼を言った雅治は、直ちにリビングの床に仰向けに横たわった。

「さあ、夏美さん、遠慮なく私の顔を素足で踏んでみてくれ」

 雅治に促された夏美は、困惑した表情で右足のスリッパと靴下を脱いだ。

「お義父さん、ちょっと待って下さい…」

 夏美はウェットティッシュを手にして、右足裏を丁寧に拭いた。それから左足一本で立ち、右手を傍らのテーブルに掛けてバランスを取って、右の素足で待ちかねた表情を浮かべている雅治の顔を踏んだ…と言うより、自分の体重を右足に掛けないように細心の注意を払って、右足裏で雅治の頬にそっと触れた。すると、足下から雅治の不満そうな声が上がった。

「夏美さん、気を遣ってくれるのは嬉しいが、遠慮なく踏みつけてくれ…そうしてくれないと、女性に顔を踏まれた老人の気持ちが分からないんだ」

 雅治に注意された夏美は、困った顔で右の素足に出来る限りゆっくり、じわじわと体重を掛け始めた。

「そうそう、その調子だよ、夏美さん…」

 足下から雅治の嬉しそうな声を聞いた夏美は、無意識に右足首を捻るように動かし、彼の顔を踏みにじってしまった。

「うっ、ううっ…」

 雅治の口から呻き声が漏れ、はっと気付いた夏美は、右足をさっと上げた。

「す、すみません、お義父さん…」

 か細い声で謝る夏美に、雅治は更に顔面を踏みつけるよう催促した。

「止めないでくれ、夏美さん!もう少しで、顔を踏まれた老人の気持ちが分かりそうなんだ…遠慮せずに、私の顔を踏みにじってくれ!」

 夏美は困ったように顔を歪めながらも、言われた通りに雅治の顔を右の素足で再度踏みつけた。先程雅治に注意されたこともあり、今度はある程度右足に体重を掛けて足首を捻り、彼の顔を踏みにじった。

 雅治の顔を踏みにじっている間、夏美は顔をしかめていたが、それは罪悪感や嫌悪感のせいではなかった。男の、それも舅の顔を踏みにじるという行為が、なぜか背中がぞくぞくするような快感を夏美に覚えさせ、それを彼女の理性が必死に打ち消そうとする葛藤にかられているせいであった。

 夏美はいい加減、雅治の顔を踏みにじったところで、

「お義父さん、もう十分でしょう…」

と言って、右足をスッと上げた。すると、雅治は予想外の願望を口にした。

「待ってくれ、夏美さん!最後に、爪先を私の口に突っ込んでくれ!」

「何ですって!?」

 夏美が驚いた声を出すと、雅治は重ねて懇願した。

「本当に、後もう少しで、女性に顔を踏まれた老人の心理状態が分かりそうなんだ…今の状況では中途半端で、文章で上手く表現出来そうにない…お願いだから、私の口に夏美さんの爪先を突っ込んでくれ!頼むから…」

 夏美は呆れた表情で雅治の顔を見下ろしていたが、思い切って右足の爪先を彼の開いた口にゆっくりと突っ込んだ。その瞬間に雅治は、

「んぐぅっ」

と苦しそうな呻き声を漏らした。しかし、その呻き声は、夏美の背骨に電流を走らせたような快感をもたらした。雅治の口中で舌が蠢き、夏美は自分の爪先が舐められているのを感じた。しかし、夏美は爪先を引き抜いたりせず、敢えてそのまま雅治に舐めさせていた。

 左足だけで立ち、右手をテーブルに掛けてバランスを取っている夏美は、

(ああ…椅子に座って、ゆっくりと舐めさせてやりたい…)

と一瞬考えた。しかし直ぐに、

(何を考えているの、私は!?お義父さんに足の指を舐めさせて、喜んでいるなんて…)

と考え直し、自分の思いを打ち消すように首を小さく横に振った。

 しばらく爪先を舐めさせたところで、さすがに夏美は足を雅治の口から引き抜き、傍の椅子を引き寄せて腰掛けた。

「お義父さん、もうこれぐらいにしましょう…」


 すると、床に仰向けになっていた雅治は、直ちに夏美の足元に土下座し、礼を述べた。

「夏美様、私みたいな薄汚い老人の願いを叶えて戴き、誠にありがとうございます」

「お義父さん、止めて下さい、そんな大げさな事は…それに嫁の私を“夏美様”なんて呼ばないで下さい」

 夏美が困惑して雅治に言うと、彼は、

「いいえ、小説を書くためと言っても、こんな恥ずかしいお願いを聞いて下さった夏美様は、私にとって女神様です。本当にありがとうございます…ああっ、夏美様のおみ足が、私の唾で汚れています。申し訳ございません。この卑しい私めに、綺麗にさせて下さいませ」

と言って、ウェットティッシュを手にし、正坐して夏美の右足を手に取って丁寧に拭い始めた。

 雅治が繊細な貴重品を扱うように自分の右足を丁寧に拭う姿を、椅子に座って見下ろしていた夏美は、心の奥底から何かが湧き上がってくるのを感じていた。それは、貞淑な妻として、舅に尽くす嫁として、絶対に認めたくない暗黒の邪悪な欲望であった。

 雅治が夏美の右足を大体拭き終えたところで、彼女はさっと右足を引き、靴下とスリッパを急いで履いて、椅子から立ち上がった。

「お義父さん、私は掃除がまだ途中ですから…お義父さんも、小説の執筆がおありでしょう。私はこれで失礼します」

 夏美はリビングの床に正坐している雅治にそう言うと、隣の部屋に移動しようとした。雅治は又も土下座して、

「夏美様、下賤な私の顔を踏みにじって下さり、本当にありがとうございます。感謝の念に堪えません」

と再度礼を述べた。雅治の感極まったお礼を聞いた夏美はなぜか性的に興奮してしまい、自分の陰部が濡れたのを自覚した。

 

 夕食の時間になったが、雅治は自分の部屋に閉じこもったまま、リビングに顔を出そうとしなかった。雅治は小説を書き始めると、夢中になって部屋から出て来ないことが度々あるので、夏美は特に心配もせず、お盆に食事と飲物を載せて雅治の部屋に向かった。

 夏美はドアをノックして、

「お義父さん、夕食をお持ち致しました」

と言って、ドアを開けた。ロマンスグレーをきちんと7・3分けにして、集中して原稿用紙に鉛筆を走らせていた雅治は、部屋に入って来た夏美を見ると、机からさっと立ち上がり、彼女の足元にひれ伏した。

「夏美様、卑しい私めに食事を持って来て戴き、誠に恐縮です。本当にありがとうございます」

 自分に土下座して大げさな礼を言う雅治を、夏美は驚いた顔で見下ろした。夏美は食事を載せたお盆を机に置くと、しゃがんで土下座している雅治に声を掛けた。

「お義父さん、嫁の私にそんな事を言うのは止めて下さい…一体、どうしたんですか?今日のお義父さんは、本当に変ですよ」

 雅治は上体を起こし、夏美の眼を真っ直ぐ見つめて、説明を始めた。

「夏美様…いや、夏美さん。私は今、天真爛漫な女性に振り回され、心身共にボロボロになっても離れられず、最終的にはその女性に隷属しなければ生きていけない哀れな男を主人公にした小説を書こうとしているんだ…だから、その男の心理状態になりきらないと、筆が進まないんだよ…」

 夏美は呆れ顔で、深いため息をついた。


「お義父さん、主人公の気持ちになるのが必要なのは分かりますが、少しやり過ぎですよ…私には、今まで通り普通に接して下さい」

 しかし、雅治は首を横に振り、再度ひれ伏して夏美に懇願した。

「いや、こんな恥ずかしいお願いが出来るのは、夏美さんしかいないんだ…だから、夏美さん…いえ、夏美様、この老いぼれが小説を書き上げるまで、夏美様を崇拝させて下さいませ。夏美様に隷属させて下さいませ。老い先短い哀れな年寄りの切なる願いと思われて、どうか叶えて下さいませ…」

 夏美は諦め顔で、再度深いため息をついた。

「…分かりました、お義父さん…それで、私は一体何をすればいいんですか?」

 雅治は上体を起こし、嬉しそうな顔で夏美に言った。

「まず、私めに夏美さんを“夏美様”と呼ばせて下さいませ…そして、私めの事は“雅治”と呼び捨てにして下さいませ」

「そ、そんな…お義父さんを、呼び捨てになんて出来ませんよ!」

 夏美が困った顔で返事をすると、雅治は、

「それでは、私めを今後は“下僕”とお呼び下さいませ…そして、この下僕には、決して敬語をご使用にならないで、ぞんざいな言葉遣いでご命令なさって下さいませ」

と懇願した。夏美は又も深いため息をついて、雅治に訊ねた。

「分かりました、お義父さ…いえ、下僕…私は他にどうすればいいのかしら?」

 雅治は机に置かれたお盆からおかずの皿を手にし、夏美の足元に置いて、お願いした。

「この食事を…いえ、この餌を夏美様の足指で挟んで、この下僕にお恵み下さいませ」

「何ですって!?」


 夏美は雅治の願い事を聞き、驚きで目を丸くした。雅治は又もひれ伏して、夏美に懇願した。

「夏美様、今後私めの食事は“餌”とお呼び下さいませ…この下僕は今、餓死しそうな程に飢えております。どうか、夏美様のおみ足で餌をお挟みになって、この下僕に恵んで下さいませ。何とぞお慈悲を…」

 ため息をついた夏美は、諦めて右足のスリッパと靴下を脱ぎ、食べやすいようにと一口サイズにした豚肉の生姜焼きを右足の親指と人差し指で摘まんで、ひれ伏している雅治に声を掛けた。

「下僕、顔を上げなさい」

 夏美は、上体を起こした雅治の口元に、豚肉を挟んだ右足の爪先を突き出した。

「下僕、早く食べなさい」

「はい、ありがとうございます、夏美様」

 雅治は顔を輝かせて、夏美の右足指に挟まれた豚肉を口にした。雅治の唇が爪先に触れた瞬間、夏美は背中がざわっとなるような快感を覚えた。雅治が豚肉の生姜焼きを咀嚼(そしゃく)していると、夏美が苦情を言った。

「足で餌を上げたら、足が油でベタベタに汚れたわ…」

 雅治は咀嚼した豚肉を慌てて飲み込むと、

「夏美様、誠に申し訳ございません」

と言って、夏美の右足を両手で持ち、足指をペロペロ舐め始めた。雅治に足指を舐められた夏美は、舌の感触で背骨に電流が走ったように感じた。夏美の足指をしばらく舐めていた雅治は、次に棚のウェットティッシュを取り、足指の油を念入りに拭い取った。午後と同じ様に、正坐して大切な壊れ物を扱うみたいに丁寧に自分の足を拭く雅治を、立って見下していた夏美は、何とも言えない悦楽を覚えた。

 雅治が足を拭き終わると、夏美は靴下とスリッパを履き、

「足を使うと汚れるから、後は自分で餌を食べなさい」

と言いつけた。すると雅治は、

「ありがとうございます、夏美様」

と礼を言い、床に置いた皿に顔を近づけると、箸も使わずに料理に直接口を着けて、犬の様に食べ始めた。雅治の浅ましい食べ方を見下ろした夏美は、強い侮蔑の感情が湧き上がり、料理を貪っている彼の後頭部を踏みにじってやりたい衝動に駆られた。しかし、敬愛する舅にそんな真似は出来ないと自分に言い聞かせ、

「食べ終わったら、食器を台所に戻しておきなさい」

とだけ言い残して、雅治の部屋を出た。

 リビングに戻った夏美は自分の夕食を摂ったが、今日の雅治の異様な行動と、それによって湧き上がる自分でも知らなかった邪悪な情念に思い悩み、料理の味が全く感じられなかった。食事を済ませた夏美は、憂鬱な顔をして台所で食器を洗いながら、夫の武志を思った。

(武志さんがいてくれたら、お義父さんもあんな異常な行いはしなかったでしょうけど…武志さんが海外出張先のマレーシアから帰って来るのに、後三週間もあるわ…その間にお義父さんの異常な行動がエスカレートしなければいいんだけど…)

 洗い物を済ませた夏美がリビングのテーブルに着いて、色々と考え事をしていると、雅治が空の食器を載せたお盆を持ってやって来た。リビングに入った雅治は、夏美に礼を言った。

「夏美様、大変美味しゅうございました。誠にありがとうございます」

「あっ、お義父さん、そこに置いておいて下さい。直ぐ片付けますから…」

 テーブルから立ち上がった夏美は、雅治からお盆を受け取ろうとした。しかし雅治は、

「いえ、夏美様のお手を煩わせる訳にはまいりません。私めが片付けます」

と言って、そのまま台所に行き、食器を洗い始めた。夏美は軽いため息をついて、再びテーブルに着いた。さっさと洗い物を終えた雅治は、

「私めは、これで失礼致します、夏美様」

と言って、そそくさと自分の部屋に戻って行った。

 夏美がテレビでも見ようと、リモコンを手にした時、雅治が何冊かの本を抱えて再びリビングに入って来た。雅治は椅子に座っている夏美の足元にひれ伏し、うやうやしく礼を述べた。

「夏美様のおかげで、小説の執筆がかなりはかどりそうです。ご協力、誠にありがとうございます」

「もう、お義父さんったら、そんな大げさな真似は止めて下さい!」

 夏美が困った顔で雅治に言うと、彼は顔を上げて、持って来た数冊の本を差し出した。

「夏美様、小説を書き上げるまで、私めのことは“下僕”とお呼び下さいませ…それと、私めはこれらの本に描写されている登場人物の心理状態を知りたいと思っております。夏美様にもお目を通して戴き、何とぞご協力をお願い申し上げます」

 夏美はすっかり当惑して、雅治に断ろうとした。

「でも、お義父さん…いえ、下僕、こんなに沢山の本は、とても読み切れないわ」

「いえ、夏美様、全部読む必要はございません。私めがそれぞれの本に付箋を貼っておりますので、そこから数ページだけお読み下さればよろしいのです。何とぞ、ご協力をお願い致します」

 夏美は困惑した表情で、雅治が差し出した数冊の本を渋々受け取った。表紙をざっと見ると、谷崎潤一郎作「痴人の愛」、梶山季之作「男を飼う・蛇と刺青の章」「男を飼う・鞭と奴隷の章」「美男奴隷」「ミスターエロチスト」、河野多恵子作「みいら採り猟奇譚」、ザッヘル・マゾッホ作「毛皮を着たヴィーナス」「残酷な女たち」となっており、全部で八冊だった。

「夏美様、空き時間にほんの少しお目を通して戴ければ、幸いでございます。どうか、よろしくお願い申し上げます」

 雅治はそう言い残すと、自分の部屋に戻って行った。今日は一体何回ため息をついたのかしらと思いながら、夏美は深いため息をつき、雅治から受け取った本をテーブルに置いた。ふと、壁の時計を見てみると、時刻は午後7時20分になっていた。

(まあ、お義父さんが真剣に小説を執筆するつもりなんだから、嫁として少しは協力しないといけないのかしら…)

 夏美は再度ため息をつき、テーブルに置かれた本の中から一冊を手にして、雅治が貼った付箋のページを開いて渋々読み始めた。

 

 夏美がふと壁の時計を見ると、時刻は既に深夜の午前2時過ぎになっていた。

(えっ、もうこんな時間!?さすがに寝なくちゃ…それにしても夢中になって、つい読み耽ってしまったわ)

 最初は嫌々読んでいた夏美だったが、読み出すと一般世間とはかけ離れた男女関係の異様な描写に興奮し、時間を忘れて読書に没頭してしまったのだ。「痴人の愛」では若い我が儘娘に振り回され、結局は言いなりになってしまう哀れな男、梶山季之の作品では色々な特殊性癖に囚われた人達による異様で様々な人間模様、「毛皮を着たヴィーナス」では女性と奴隷契約した男の哀れな結末…作者が同じ女性だからかもしれないが、特に「みいら採り猟奇譚」では年の離れた夫の被虐趣味に付き合わされた若い新妻の変貌していく描写が、夏美の心を強く捉えた。

(お義父さんが貼った付箋のページから読んだけど、もう一度最初から読み直さなければいけないわね…もう遅いから、さっさと寝ましょう)

 夏美は寝室に行き、パジャマに着替えてベッドに入ったが、読書の興奮が冷めずになかなか寝付けなかった。

 

 朝7時にセットしたスマホのアラームで、夏美は目を覚ました。雅治は毎朝8時頃に朝食を摂るので、夏美はいつもその1時間前に起きるようにしていた。寝不足の頭に手をやり、しばらくぼうっとしていた夏美だったが、自分を叱咤して何とかベッドから起き上がった。夏美はパジャマからスエットに着替えると、洗面所に行って洗顔し、朝食の準備に取り掛かった。

 ハムエッグと野菜サラダを同じ皿に盛り付け、ご飯と味噌汁をテーブルに置いたところで、雅治がリビングに入って来た。雅治はリビングの床にひれ伏し、

「お早うございます、夏美様」

と夏美に挨拶した

「お義父さん…いえ、下僕、わざわざそんな挨拶しなくていいから、さっさと朝ご飯を食べなさい」

 夏美は昨日雅治に言われた通りに、彼を“下僕”と呼んで、テーブルに着くよう命令口調で促した。しかし、顔を上げた雅治は、

「いえ、卑しい私めが、夏美様と同じ食卓に着くなんて、畏れ多いことでございます。下賤な私めに相応しく、床で餌を戴かせて下さいませ」

と言って、床に正坐したままテーブルに着こうしなかった。

 夏美は呆れ顔で、仕方なく朝食を床に正座している雅治の前に置いた。

「ありがとうございます、夏美様」

 雅治は礼を言うと、昨日と同じ様に箸を使わず、顔を皿に近づけて犬みたいにハムエッグを食べ始めた。呆れた表情で雅治の浅ましい食べ方を見ていた夏美は、ふと気が付いた。

(皿のおかずはまあいいけど、この食べ方じゃ、ご飯と味噌汁は食べにくいわよね…)

 夏美は台所から大きめのステンレス製ボウルを持って来て、犬食いしている雅治の前に置き、ご飯の茶碗と味噌汁のお椀を手にして、ボウルの上でひっくり返した。ボウルの中で混ざったご飯と味噌汁は、本当に犬の餌みたいに見えた。

「下僕、おかずだけじゃなく、こっちも食べなさい」


 夏美が雅治の方へボウルを押しやって声を掛けると、彼はハムエッグの黄身が付いて汚れた顔を上げ、

「ああっ、夏美様は何てお優しいんでしょう…誠にありがとうございます」

と大げさな礼を言い、ボウルに顔を突っ込んだ。ペチャペチャと音を立てて味噌汁ご飯を貪っている雅治を、立って見下ろしていた夏美は強い侮蔑を感じ、昨日感じた衝動をつい抑えきれなくなってしまった。夏美はスリッパを履いた足で、犬食いしている雅治の後頭部を踏みつけ、

「下僕、餌を残さず食べるのよ!」

と大声を出した。その瞬間に夏美は、はっと我に返り、

(何してるの、私は!?お義父さんを踏みつけるなんて…)

と自問自答し、雅治の後頭部からさっと足を引っ込めた。しかし、汚れた顔を上げた雅治は、

「はい、夏美様!私めは、夏美様が恵んで下さった餌を、喜んで残さず戴きます」

と喜悦の表情を浮かべて答え、再度ボウルに顔を突っ込んで食べ始めた。頭を踏まれた雅治は怒らず、逆に喜んでいるのを見て、夏美はほっと胸を撫で下ろした。それにしても敬愛している舅の頭を踏みつけるなんて、今までの夏美からは想像も出来ないことであったが、これは昨日雅治から差し出された本を読んだ影響かもしれなかった。

 夏美はテーブルに着き、自分用の朝食を摂り始めた。夏美と雅治が朝食を終えたのは、殆ど同時だった。雅治は汚れた顔のまま、自分が使った皿とステンレス製ボウルを台所に持って行き、洗おうとした。

「下僕、洗い物はいいから、さっさと顔を洗って来なさい」

 夏美が声を掛けると、雅治は、

「いえ、夏美様のお手を煩わせる訳には参りません」

と答えて、スポンジを手にした。夏美は苛立った様な口調で、

「顔を洗って来なさいって、言ったでしょう!洗い物は私がするわ…下僕は顔を洗ってから、早く小説を書きなさい!」

と命じた。

「…恐縮ですが、よろしくお願い致します、夏美様」

 雅治はそう答えると、そそくさと洗面所に向かった。夏美は手早く洗い物を済ませ、食後のコーヒーを淹れた。それからリビングのテーブルに雅治が差し出した本を積み重ね、その内の一冊を手にして貪るように読み始めた。

 

 夏美がふと、壁の時計を見ると、時刻は午前10時過ぎになっていた。

(本を読んでいると、時間が経つのが早いわね…)

 夏美はテーブルの上からマグカップを手にし、冷めたコーヒーを啜った。そして、小説を熱心に執筆しているであろう雅治にも、コーヒーを出そうと考えた。夏美は新しくコーヒーを淹れ、雅治用のカップに注ぎ、お盆の上に置いた。夏美はお盆を持って、雅治の部屋に向かおうとしたが、急に立ち止まった。

(ちょっと待って…お義父さんのことだから、私が淹れたコーヒーを普通には飲まないわよね…)

 夏美はカップのコーヒーを小さめステンレス製ボウルに移し、雅治の部屋に持って行った。夏美はドアをノックし、

「下僕、コーヒーを持って来たわよ」

と言って、雅治の部屋に入った。机にかじりついて原稿用紙へ一心不乱に鉛筆を走らせていた雅治は、直ぐに立ち上がり、夏美に近づくと、彼女の足元にひれ伏した。

「夏美様、この下賤な私めにコーヒーをお持ち下さり、感謝の念に堪えません。誠にありがとうございます」

 雅治の大げさな謝意に驚かなくなった夏美は、ひれ伏している彼の前にコーヒーが入っているボウルを置いた。

「いいから、さっさとコーヒーをおあがりなさい…ところで小説の方は、はかどっているの?」

 顔を上げた雅治は、嬉しそうな表情を浮かべて、夏美の質問に答えた。

「はい、夏美様のご協力のおかげで、順調に書き進んでおります」

「そう…それはよかったわ。ところで、どんな小説を書いているの?ストーリーは?」

 夏美に尋ねられた雅治は、一瞬困った顔をしたが、直ぐに笑顔で答えた。

「はい、父親と息子の二人暮らしの家に、息子と結婚して嫁となり同居した女性が、最初は舅から嫁いびりされて辛い思いをしていたのですが、ある事がきっかけで立場が逆転し、今度は嫁が舅を虐め抜いて奴隷の如く扱うというストーリーです」

(まるで、今の私とお義父さんの状況をモデルにしたストーリーじゃないの…)

 夏美は内心呆れたが、ふと疑問に思った事を口にした。

「…えっと、下僕は確か、天真爛漫な女性に振り回されて心身共にボロボロになり、その女性に隷属する哀れな男の小説を書くって言ってなかったかしら?」

「はい…最初はそのつもりだったのですが、夏美様にご協力戴き、別のストーリーが頭の中へ泉みたいに湧き出て来たのです。全て夏美様のおかげです。誠にありがとうございます」

 雅治は再度ひれ伏して、夏美に礼を述べた。夏美は、何とも言いようが無いといった顔をして、

「まあ、いいから、コーヒーでも飲みなさい」

と言って踵(きびす)を返し、雅治の部屋を出ようとした。すると、

「ちょっとお待ち下さいませ、夏美様!」

と雅治から呼び止められた。夏美は振り向いて怪訝な表情を浮かべ、

「どうしたの、下僕?」

と尋ねた。顔を上げた雅治は、

「夏美様、お願いがございます…今の小説を書くのに、もっと強い屈辱感が私めには必要なのです。ですから、夏美様がお持ち下さいましたコーヒーに、ペッと唾を吐いて戴けないでしょうか…何とぞ、お願い申し上げます」

と頼んで、又もひれ伏した。あまりにも非常識な雅治の頼みに、夏美は顔をしかめた。今までの夏美だったら、きっぱりと断っていただろうが、雅治が差し出した本を読んだ影響なのか、

「…いいわよ」

とあっさり返事をして、ボウルのコーヒーにペッと唾を吐いた。

「あ、ありがとうございます、夏美様!」

 雅治は感極まった口調で礼を言ってボウルに顔を突っ込み、犬が水を飲むように夏美の唾が浮かんだコーヒーを舌で掬い、ピチャピチャと音を立てて飲み始めた。夏美は、又も雅治の頭を踏みつけてやりたい強い衝動に駆られたが、何とか抑えて彼の部屋を出て行き、リビングに向かった。夏美はリビングに向かう廊下で、舅の雅治を自然に“下僕”と呼んでいた自分に気が付いた。

 

 リビングで読書に没頭している夏美の耳に、スマホのアラームが鳴り響いた。夏美はアラームを切り、壁の時計に目をやった。時刻は午前11時40分になっていた。夏美は自分が読書に夢中になって、雅治への昼食の準備を忘れることが分かっていたので、予めアラームをセットしておいたのだ。夏美は、昼は簡単にレトルトのカレーにしようと思っていたが、考え直した。

(お義父さんのあの食べ方じゃ、カレーは止めた方がよさそうね…)

 夏美は冷蔵庫から冷凍食品の炒飯を取り出し、電子レンジで温めた。炒飯は大きめのステンレス製ボウルに入れ、麦茶を小さめのボウルに入れて、両方をお盆に乗せ、雅治の部屋に向かった。夏美はドアをノックし、

「下僕、昼の餌を持って来たわよ」

と声を掛けて、雅治の部屋に入った。熱心に小説を書いていた雅治は、直ぐに机から立ち、夏美の足元の床にひれ伏した。

「ああっ、何とお慈悲深い夏美様…誠にありがとうございます」

 夏美は大げさなお礼の言葉を無視し、ひれ伏している雅治の前の床に炒飯のボウルと麦茶のボウルを置いた。

「いいから、さっさと食べなさい」

 夏美が投げやりな口調で言うと、雅治は顔を上げて頼み事をした。

「夏美様、お願いがございます…」

「言われなくても、分かっているわよ」

 夏美は雅治の頼み事を最後まで聞かず、麦茶のボウルにペッと唾を吐いた。

「ありがとうございます、夏美様…実はもう一つ、お願いがあるのです…」

 夏美は怪訝な顔をして、雅治に尋ねた。

「一体、何かしら?」

「はい、朝の餌の時の様に、夏美様に餌を食べている私の頭を踏みにじり、罵って戴きたいのです」

 さすがに夏美は呆れて、つい声が大きくなった。

「何ですって!?本気なの、下僕?」

「はい、本気でございます。夏美様、お願いでございます。どうか、お慈悲を…」

 願い事を言って、再度ひれ伏した雅治を見下ろした夏美は、仕方なく了承した。

「…いいわよ、してあげる。さっさと餌をおあがり!」

「ありがとうございます、夏美様」

 強い口調で命じた夏美に、雅治は嬉々とした声で礼を言い、直ぐに炒飯のボウルに顔を突っ込んだ。夏美は、炒飯を犬の様に貪り始めた雅治の後頭部にスリッパを脱いだ右足を載せ、強く踏みにじった。

「この私がわざわざ下僕のために作った餌なんだから、一粒でも残したら承知しないわよ!」

 夏美はそうきつく言うと、雅治の頭から右足を外し、スリッパを履いて部屋を出ようとした。その時、雅治は炒飯が付いた顔を上げ、

「夏美様、私めのお願いを叶えて下さり、誠にありがとうございます」

と謝意を述べた。

「いいから、さっさと食べなさい!」

 夏美はそう言い残すと、床に置いてあるコーヒーを入れていた空のボウルを手にし、雅治の部屋を出てリビングに向かった。雅治の頭を踏みにじって罵った時、背中に電流が走った様な快感を自覚した夏美は、胸の鼓動が異様に高まっていた。

 

 リビングに戻った夏美は、レトルトカレーを温めて、昼食を簡単に済ませた。洗い物を片付けた夏美は、椅子に座って本を読み始めた。夏美が読書を再開してしばらくすると、雅治が昼食を食べ終えた空のボウルを持って来た。雅治はボウルを台所に置いてから、椅子に座って読書している夏美の足元にひれ伏し、

「夏美様、大変美味しゅうございました。誠にありがとうございます」

と礼を述べた。夏美は開いている本のページに目を向けたまま、

「お礼はいいから、さっさと部屋に戻って、早く小説を書きなさい。洗い物は、私がしておくから…それと、お前が持って来た本だけど、もう少し読みたいから、しばらく借りておくわよ」

と応えた。夏美は舅の雅治を、自然に“お前”呼ばわりしたが、彼女自身はそれに気付いていなかった。上体を起こした雅治は顔を輝かせ、

「下賤な私めの本を、夏美様が気に入って下さるなんて、身に余る光栄でございます。どうぞ、ご存分にお読み下さいませ」

と言って立ち上がり、リビングを出て行った。夏美は雅治に振り向きもせず、読書に没頭した。

 

 夏美がふと壁の時計を見ると、時刻は午後3時過ぎになっていた。夏美は読んでいた本をテーブルに置き、台所に行って雅治が持って来たボウルを洗ってから、コーヒーを淹れた。夏美はリビングのテーブルに戻り、熱いコーヒーを啜って本に一旦手を掛けたが、雅治にもコーヒーを持って行こうと思い直した。夏美はコーヒーポットに余ったコーヒーをステンレス製ボウルに移し、雅治の部屋に向かった。

 夏美はドアをノックし、

「下僕、入るわよ」

と言って、雅治の部屋に入った。机で原稿用紙に鉛筆を走らせていた雅治は、直ちに椅子から立ち上がり、夏美の足元にひれ伏した。

「夏美様、わざわざご足労戴きまして、誠に恐縮です」

 夏美はしゃがんで、土下座している雅治の前にコーヒーが入ったボウルを置き、

「下僕、いいから、お前も一服しなさい」

と声を掛けた。雅治はひれ伏したまま、

「ありがとうございます。何てお優しい、夏美様…」

と礼を言ってから、顔を上げた。

「それと、これは下僕への特別サービスよ」

と夏美は言って、ボウルのコーヒーにペッと唾を吐いた。

「あ、ありがとうございます、夏美様」

 再びひれ伏して礼を言った雅治をそのままに、夏美は立ち上がって部屋を出た。

 

 夏美がリビングで読書に耽っていると、雅治がコーヒーを入れていた空のボウルを持って来た。雅治は台所でボウルを簡単に洗ってから、夏美の足元にひれ伏して、

「夏美様、コーヒーを恵んで下さり、誠にありがとうございました」

と礼を述べた。夏美は開いている本から視線を外さずに、

「分かったから、早く部屋に戻りなさい。お前はまだ、小説を書き終えてないんでしょう?」

と些か煩わしそうに応えた。夏美は、雅治が直ぐに部屋へ戻ると思ったのだが、彼は顔を上げ、予想外の事を言い出した。

「夏美様、誠に畏れ多いのですが…夏美様に一つお願いがございまして…」

「何よ、下僕?さっさと言ってご覧」

 夏美は読書を続けながら、面倒くさそうに応えた。

「夏美様にお話しさせて戴いた小説のストーリーの、ある事がきっかけで舅と嫁の立場が逆転するところなのですが…その場面の心理状態を実感したいと思いまして、夏美様に是非ご協力をお願い出来ないかと…」

 雅治の歯切れが悪い物言いを聞いた夏美は、仕方ないという感じで本を閉じ、ようやく彼の方に向き直った。

「下僕、私に一体何をさせたいの?」

 夏美の問いに、雅治はどう切り出そうかと一瞬考える素振りをして、

「はい、夏美様…ご足労をお掛け致しますが、風呂場の前までお越し戴けないでしょうか…」

と答えた。

「別にいいけど…?」

 夏美は些か怪訝な顔をしながらも、椅子から立ち上がって、さっさと浴室に向かった。その後を、雅治が少し慌てた様子でついて行った。

 浴室の前には洗面台があり、その洗面台の傍らには洗濯機と洗濯籠が置いてあった。夏美は、昨晩から読書に耽って洗濯していなかったので、洗濯籠には洗濯物が溜まっていた。二人が浴室の前に来ると、雅治は床に正坐して、夏美に説明し始めた。

「先程お話しさせて戴いた、ある出来事がきっかけで舅と嫁の立場が逆転する場面なのですが…“ある出来事”というのは、舅が嫁に恥ずかしい弱味を握られ、息子に話すと脅迫されるものでなくてはなりません…例えば、嫁が入浴中に舅が覗くとか、嫁が就寝中に舅が夜這いに来るとか…しかし、そんな事は畏れ多くて、とても夏美様に体現をお願い出来ません…」

 夏美は、当たり前でしょうと内心思いながら、腕組みして雅治の説明を聞いていた。

「それで思いついたのが、舅が嫁の汚れた下着の臭いを嗅ぎながら、自慰をするという恥ずかしい姿を、嫁に見られることです…」

 雅治はそう言うと、急に傍の洗濯籠を漁って、夏美のベージュ色パンティを取り出した。唖然とした夏美の前で、雅治はパンティを裏返し、汚れたクロッチ部分を露わにした。

「ちょ、ちょっと、下僕、何してるのよ!」

 自分のパンティの汚れた部分を雅治に見られた夏美は、恥ずかしさでかん高い声を上げた。しかし、雅治は全く構わずに、説明を続けた。

「舅の恥知らずな行動を見た嫁は激怒し、舅を殴る蹴るしてから、息子に話して欲しくなかったら、自分の奴隷になるよう脅迫するのです…私めは、今から夏美様の汚れた下着の臭いを嗅ぎながら、自慰を致します。夏美様は、こんな恥知らずで卑しい私めを、ご遠慮なさらずに殴る蹴るして、ご存分に制裁を加えて下さいませ」

 横を向いて膝立ちになった雅治は、夏美が止める暇も無く、スラックスのファスナーを下ろし、年甲斐も無く既に硬くなっている股間のものを、もどかし気に取り出した。そして、パンティの汚れた部分を鼻に押し当てて、硬く屹立しているものをしごきながら、

「ああっ、若い女の臭いだ…堪らない」

といやらしい声を出した。

 雅治のおぞましい痴態を目の当たりにした夏美は、今まで敬愛していた舅の知性的なイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ち、かろうじて維持していた理性の細い糸がプツンと切れてしまったのを自覚した。自制心の留め金が弾け飛び、心の奥底から黒い業火が噴出した夏美は、もう自分を止められなかった。

「下僕、ふざけるんじゃないわよ!」

 怒鳴り声を上げた夏美は、パンティの汚れを嗅ぎながらオナニーしている雅治の横顔を、スリッパを履いた足で蹴り飛ばした。

「ヒイィッ」

 雅治は思わず悲鳴を上げ、床に横倒しになった。

「何を寝ているのよ!とっとと正坐おし、下僕!」

 夏美は雅治を怒鳴りつけ、彼の腹を蹴りつけた。

「グボッ…は、はい、ただ今…」

 腹を蹴られて呻き声を漏らした雅治は、苦し気な声で何とか返事をして、よろよろとその場で正座した。怒りで目を吊り上げた夏美は、正坐した雅治の白髪を左手で掴んで上に引き、顔を上向かせた。

「お前が小説の執筆にこじつけて、自分の変態被虐願望を満たそうと、私に恥ずかしい真似をさせたのを、気が付かないとでも思っていたのかい!この、変態っ!変態っ!変態っ!」

 夏美は一言一言区切りながら、右手で強烈な平手打ちを何発か喰らわせた。正座している雅治は、

「ヒィッ、ヒィッ、ヒィッ…」

と悲鳴を漏らしながらも、両手は自分の両膝を握り締めて、自分の顔をガードしようとせずに、夏美から両頬を打たれるがままになっていた。雅治の両頬を平手打ちしている夏美は気が昂り、陰部が熱くなるのを感じた。

 次に夏美はスリッパを脱いで、それを手にすると、

「お前の卑しい顔を叩いたら、私の手が汚れるわ!」

と言って、スリッパの底で雅治の両頬を交互に打った。パアーン、パアーンと軽快な音が響き、雅治の呻き声が聞こえた。雅治の両頬は見る見る腫れ出したが、それでも彼は正座の姿勢を崩さず、夏美のスリッパを避けようとしなかった。スリッパで頬を叩く音と、痛みを堪えている雅治の苦しそうな顔が、夏美を更に興奮させて陰部を濡らせた。

 夏美は雅治の頬を4、5回打つと、スリッパを放り投げた。雅治の両頬は赤く腫れ上がっていたが、スラックスのファスナー部分から突き出ているものは、硬度を失わずに屹立したままで、萎える気配が無かった。

「下僕、武志さんが帰って来たら、お前の変態振りを言いつけてやるからね!」

 夏美にそう言われた雅治は、その場で土下座して、必死に懇願した。

「夏美様、それだけはお許し下さいませ。一人息子の武志だけには、内密にして下さいませ…内密にして戴けるのでしたら、夏美様からどの様なお仕置きでも、甘んじて受けさせて戴きます。夏美様に、どの様な償いでもさせて戴きます…」

「下僕が、私にどんな償いをするって言うのよっ!?」

 夏美に強い口調で問い詰められた雅治は、顔を上げて彼女の眼を真っ直ぐに見つめ、はっきりと答えた。

「はい、まず私めを、下僕から奴隷に格下げして下さいませ。下僕はまだ、召使いの範疇ですから、卑しい私めには分が過ぎます。夏美様に絶対服従し、夏美様に生殺与奪の権を握られて、夏美様の顔色を常に窺い、ビクビク脅えながら暮らす奴隷の身分こそが、卑しい私めに相応しいと心得ます…どうか、夏美様には絶対的権力をお持ちの女御主人様におなり戴き、私めを何の人権も無い、夏美様の奴隷として所有して下さいませ」

 雅治は、そう夏美に懇願すると、再び土下座した。


「仕方ないわね…お前がそれ程言うなら、私の奴隷にしてあげるわよ!」

 興奮冷めやらぬ表情の夏美が応じると、雅治は上体を起こし、顔を輝かせて礼を述べた。

「夏美様、誠にありがとうございます。夏美様の奴隷にさせて戴けるなんて、身に余る光栄でございます…今後は私めを“下僕”ではなく、“男奴隷”とお呼び下さいませ」

 そして、雅治は正座したまま、ポロシャツを脱いで上半身裸になり、スラックスから革ベルトを抜き取って二つ折りにすると、両手でうやうやしく夏美に差し出した。

「卑しい男奴隷の私めが、今まで夏美様に対してしでかした不作法の数々、斬鬼の念に堪えません。このベルトを鞭代わりになさり、この男奴隷をご存分に打ちのめしになって、お仕置きして下さいませ」

 雅治はそう言って、自ら鞭打たれるのを夏美にせがんだ。興奮で顔を赤らめている夏美は、雅治から革ベルトを受け取ると、ベルトのバックル付近を握り締めた。それから夏美は、

「そう…下僕、いえ男奴隷が望むのなら、たっぷりとお仕置きしてあげるわよ!」

と言って、上半身裸で正座している雅治に、何の躊躇いも無く、力を込めて革ベルトを袈裟懸けに振り下ろした。ビシッと肌を叩く音がして、雅治の口から、

「アウッ」

と短い悲鳴が漏れた。雅治は顔を苦し気に歪めて、体を強張らせた。

 革ベルトで人間の肌を打った感触と、雅治の苦しむ姿に、夏美の子宮が疼いた。夏美は床に正坐している雅治の顔を、足裏で押すように蹴って彼を後ろに倒し、怒鳴りつけた。

「男奴隷の分際で、何を偉そうにズボンを穿いているのよ!奴隷が服を着ているなんて、思い上がりもはなはだしいわ!服を全部脱いで、真っ裸におなり!」

「は、はい、ただ今…」

 夏美に怒鳴られた雅治は、慌てて起き上がると、直ちにスラックスとトランクスを一緒に引き下ろして脱ぎ、靴下も脱ぎ捨てて、全裸となった。それから、夏美の足元にひれ伏し、

「夏美様、男奴隷の私めが分をわきまえずに、服などを着てしまい、誠に申し訳ございません…どうか、お許し下さいませ」

と謝罪した。しかし夏美は、ひれ伏した雅治の首筋を踏みつけて固定すると、

「口先だけのお詫びなんて、何の意味も無いのよ!お仕置きだよ、男奴隷!」

と大声で言って、タガが外れたように、彼の背中を革ベルトで4、5回、思い切り打ち据えた。打つ度に足下から聞こえる雅治の悲鳴と、足裏に感じる彼の蠢きが、興奮している夏美をますます昂らせた。

 今の夏美は、自分でも認めたくなかった、男を虐待して快感を貪る邪悪な黒い欲望から目を逸らせずに、真っ直ぐ向き合っていた。むしろ、積極的にその黒い欲望を解放し、雅治を虐めて苦しめる快楽に浸っていた。

 夏美は、雅治の首筋から足を外すと、

「男奴隷、顔をお上げ!」

と命じた。雅治が上体を起こすと夏美は、先程彼が鼻に当てた自分の汚れたパンティを、床から拾い上げた。

「男奴隷、口をお開け!」

 そう命じた夏美は、雅治の開いた口に、自分の汚れたパンティを突っ込み、押し込んだ。

「んぐぅっ」


 くぐもった呻き声を上げた雅治だったが、彼の口中に饐えたような女の臭いが充満し、酷く痛い目に遭わされたにも関わらず、股間で屹立しているものの硬度と仰角が増した。それを見た夏美は、

「ふんっ、私の汚れたパンティを咥えて興奮するなんて、本当にいやらしい男奴隷だね…ぼうっとしてないで、後ろを向いて四つん這いにおなり!」

と雅治に命令した。雅治が命じられた通りに、後ろ向きで四つん這いになると、夏美は、

「男奴隷、額を床に着け、両脚を肩幅に開いてから、真っ直ぐお伸ばし!」

と命じて、彼の尻を高く突き上げさせた。

「男奴隷、絶対にその姿勢を崩すんじゃないよ。お仕置きは、これからが本番なんだからね…覚悟おし!」

 夏美はそう言うと、突き上げた雅治の尻を、革ベルトで横殴りに、力強く打ち始めた。尻肉を叩く音が響き、雅治の尻が見る見る腫れ上がった。それでも雅治は、口に押し込まれた夏美の汚れたパンティを噛み締め、体を強張らせながらも革ベルトの打撃に耐えて、姿勢を崩そうとしなかった。夏美は、雅治の尻を数回打ったところで、革ベルトを振るう方向を変え、下から掬い上げるように彼の股間部分を強く打った。

「ぐもぅっ」

 急所である陰嚢を革ベルトで強かに打たれた雅治は、さすがに堪らず、くぐもった呻き声を上げて横倒しになり、両手で股間を押さえて悶え苦しんだ。自分の汚れたパンティを咥えて苦悶している雅治を見下ろした夏美は、背中がぞくぞくするような快感を覚えた。

 夏美は、横倒しになって苦しんでいる雅治の腹を蹴りつけ、

「男奴隷、姿勢を崩すなと言ったでしょう!この私の言う事なんか、馬鹿馬鹿しくて聞けないとでも言いたいの!?」

と叱り、彼の口から汚れたパンティを引っ張り出して、床に放った。雅治は涙をボロボロこぼし、陰嚢から下腹全体に広がる痛みに堪えながら、

「い、いえ、決してそんな事はございません…どうか、お許しを…何とぞ、お慈悲を、夏美様…」

と懸命に慈悲を請うた。それでもなぜか、股間のものは萎えること無く、硬く屹立したままだった。夏美は足で雅治の頭を小突き、

「男奴隷、仰向けにおなり!」

と命令した。


「は、はい、夏美様…ただ今…」

 雅治は、股間と下腹に広がっている痛みを堪えて、革ベルトで鞭打たれて引きつる体を無理に動かし、何とか仰向けに横たわった。夏美は、手にしていた革ベルトを床に放ると、下衣のスエットを脱ぎ捨て、ピンク色パンティだけの下半身を露わにした。そして、床で仰向きになっている雅治の顔を、両足で挟むように後ろ向きに立った。下から夏美の股間部を見上げる雅治には、ピンク色パンティのクロッチ部分が濡れているのが、はっきりと分かった。夏美は雅治に、

「男奴隷、お前は私の汚れたパンティの臭いが好きみたいだね…それなら特別に、直接臭いを嗅がせてあげるわよ!」

と言うと、腰を下ろして彼の顔に座り込んだ。ピンク色パンティに包まれた夏美の柔らかい秘肉に、体重を掛けて口と鼻をぴったりと塞がれた雅治は、息が全く出来なくなってしまった。苦しくなり、窒息する恐怖に脅えた雅治は、思わず両手を夏美の尻に掛けた。しかし雅治は、夏美を押しのけるような無礼な真似は出来ないと思い、両手を元通り床に伸ばし、窒息する苦しさを選ぼうと決心した。

 その瞬間、夏美が僅かに腰を浮かせ、雅治はようやく息が出来るようになった。ピンク色パンティに包まれた夏美の股間との、僅かな隙間で呼吸する雅治は、必然的に彼女の陰部の臭いを鼻で吸うようになり、その饐えたような強烈な女の臭いは、彼の頭をクラクラさせた。そして、雅治の股間のものは、ますます硬度を増した。

 夏美は手を伸ばし、雅治の股間で硬くそそり立っているものを握り、ゆっくりとしごき始めた。夏美の尻下から、雅治の切なそうな声が漏れた。既に興奮の極致に達している雅治は、少ししごかれただけで、直ぐに果てそうになっていた。夏美は、それを見透かしたかのように、

「男奴隷、言っておくけど、もしお前が汚らわしい白い液を漏らして、私の手を汚しでもしたら、どんな目に遭うかは覚悟してるんでしょうね…私の許しも得ずに、勝手に射精したりしたら、生まれて来なきゃよかったと、心底後悔させてやるからね!」

と言って、雅治に釘を刺した。しかし雅治は、興奮して硬く敏感になっている股間のものを、夏美の柔らかな手でねっとりとゆっくりしごかれる甘美な快感に耐える自信は、全く無かった。夏美は、脅しの言葉を続けた。

「もし勝手に射精して、私の手を汚しでもしたら…真っ赤に焼けた鉄串を尿道に突っ込むか、陰嚢をハサミで切り裂き睾丸を取り出すか、陰茎をおろし金でじわじわと削り取るか…好きなお仕置きを選ばせてやるからね、男奴隷!」

 雅治は恐怖で震え上がり、夏美の尻下でくぐもった呻き声を漏らした。雅治は、股間でそそり立っているものから、出来るだけ意識を逸らそうと努めたが、夏美の柔らかい手でしごかれている、蕩けるような甘美な刺激には、とても抗えなかった。雅治のものは年甲斐も無く、破裂する程に極限まで硬く膨張し、射精するまで後数秒も掛からないところまで追い詰められていた。

 もう一擦りで射精するという瞬間に、夏美はしごいていた手をパッと放した。後一歩で射精出来なかった雅治は、夏美の尻下で切ない吐息を漏らした。夏美は雅治の顔から立ち上がると、先程床に放った革ベルトを拾い上げた。それから、雅治の股間で硬くそびえ立っているものを、軽蔑し切った表情で見下し、

「よくもまあ、この私の前で恥知らずにも、こんなに興奮して硬く大きく出来るものね…男奴隷、これは私からのお仕置きだよ!」

と言って、硬く屹立しているものを、革ベルトで情け容赦無く、力を込めて思い切り打ち据えた。敏感になっているものを、革ベルトで強く引っぱたかれた雅治は、股間のものが引きちぎられた様な激痛を感じ、

「グエアァーッ」

と獣じみた絶叫を上げて、硬くそびえ立ったものから夥しい白濁液を噴出させ、白目を剥いて気絶してしまった。

 雅治が射精して失神する様子を見下していた夏美は、何かが子宮に突き上げるような強い快感を覚え、思わず両手で股間を押さえて、その場にしゃがみ込んだ。

 

 この日を境に、夏美はよく出来たかいがいしい嫁から、絶対君主である女御主人様に、雅治は敬愛される舅から、夏美に絶対服従する男奴隷へと変貌を遂げた。家の中は空調が効いているので、雅治は服を着るのを一切許されず、常に全裸でいることが義務付けられた。夏美と雅治は二人でパソコンを見て、SⅯ用品の販売サイトにアップされているグッズを色々選び、雅治のカードを使って注文した。

 最初に雅治は、掃除・洗濯・炊事等の家事労働全般を夏美の監督の元で行い、ほんの少しでも粗相があれば、厳しくお仕置きして欲しいと、夏美に願い出た。しかし夏美は、そんな事をする暇があったら、一日も早く小説を書き上げるようにと、諭して断った。

 雅治は、それではと物置から昔海外旅行土産で買ったクラッシックでおしゃれなハンドベルを探し出し、御用の際はこれでお呼びをと、夏美に差し出した。雅治はハンドベルの音を聞き逃すまいと、部屋のドアを開けっぱなしで小説を執筆するようになった。

 これまで、雅治が自室で小説の執筆に没頭していると、夏美が食事やコーヒー等を彼の部屋に持って行っていたのだが、今は食事やお茶の時間になれば、夏美がハンドベルを鳴らして雅治をリビングに呼びつけるようになった。

 夏美はこれまで、雅治の食事は別にちゃんと作っていたのだが、今では自分用の食事を二人分程多めに作り、雅治をリビングに呼びつけて床に正坐させ、自分が食事するのをおあずけで見せつけるようにした。そして自分の食事が終わると、食べ残した料理をステンレス製ボウルに移し、唾や痰を吐きかけて、雅治に与えるようになった。時には、ボウルに移した残飯を素足でグシャグシャに踏み潰してから、雅治に与えることもあった。夏美が、残飯で汚れた足を舐めてきれいにするよう雅治に命じると、彼は嫌がるどころか、大げさな礼を述べ、嬉々として夏美の足の汚れを舐め取った。

 お茶やコーヒーも、これまでは唾を吐き掛ける程度であったが、今では夏美が一旦口に含んで、クチュクチュとゆすいでから、ボウルに吐き出して、雅治に与えるようになった。お茶やコーヒーは夏美の唾が混ざって泡立ち、普通の人間なら見るだけで不快になるが、雅治は喜んで、犬の様に舌でピチャピチャと音を立てて掬いながら飲んでいた。

 ネット販売で注文して5日後、SⅯグッズ入りの大きな段ボール箱が届き、夏美と雅治は一緒に箱を開けて、中のグッズを確認した。まず夏美が、段ボール箱から革製の黒色首輪を取り出し、全裸の雅治の首に嵌めて、

「これが、私の奴隷になった印よ」

と面白そうに言った。雅治は喜びで目を輝かせて、その場にひれ伏し、

「夏美様、誠にありがとうございます。身に余る光栄です」

と謝意を述べた。夏美と雅治は、段ボール箱から色々な種類の鞭、手錠、革製の手枷足枷、手綱付きの轡(くつわ)、電動バイブ、ペニスバンド、ガラス製シリンダー式浣腸器、アナルフック等々、多種多様なSⅯグッズを取り出し、床に並べた。夏美は、

「これらの道具が、お前をどの様に可愛がってくれるのか、本当に楽しみだわ」

と雅治に言った。雅治は体を震わせ、

「ああっ、そんな…とても恐ろしゅうございます、夏美様…」

と脅えた口調で答えたが、口とは裏腹にその目は夏美から与えられる被虐の期待で輝いていた。

 

 すっかり嗜虐の悦楽に目覚めた夏美であったが、意外にも彼女の方から積極的に雅治を虐めることはしなかった。家事を一通り済ませた夏美が、リビングで雅治が差し出した本を読み耽っていると、全裸に首輪だけの雅治がリビングを訪れて、夏美の足元にひれ伏し、小説を書くのに虐められる男の気持ちになるため、思いついた責めを施して欲しいと願い出て、それに応じるのが常であった。

 ある日、雅治は夏美に、自分を犬扱いして引き回してから、人間馬にして乗り潰し、勝手にへたばった罰にお仕置きして欲しいと申し出た。夏美は読んでいた本を閉じて、椅子から立ち上がり、雅治と共に仏間に向かった。この家では法事等で親戚が多数集まったりするので、仏間が十二畳と広く、夏美が雅治を調教する場所に使っていた。

仏間に入ると、夏美は気分を出すために服を脱ぎ、黒色のブラジャーとパンティだけの下着姿になり、室内用に購入した膝まである黒革ブーツを履いた。畳を痛めないようにと、ブーツはローヒールの物を選んだ。仏間には雅治がわざわざ手配した厚い絨毯が敷き詰められており、仏間の押し入れにはSⅯグッズを収納しておくロッカーを据え付けた。

 既に股間のものを硬く屹立させている雅治は、リードを自分の首輪に付けると、夏美の足元に跪き、乗馬鞭とリードの端をうやうやしく両手で差し出した。夏美は受け取ったリードの端をぐっと引き、乗馬鞭を空中で一振りして、鞭が風を切る音を雅治に聞かせ、

「さあ、男奴隷、お散歩の時間だよ!犬らしく、さっさとお回り!」

と命令した。雅治が、

「はい、かしこまりました、夏美様」

と言って、四つん這いで進み始めると、夏美の乗馬鞭がいきなり彼の背中を打ち据えた。

「ギャアッ」

 背中に焼け火箸を押し付けられた様な激痛で、悲鳴を上げて仰け反った雅治を、夏美は大声で叱った。

「男奴隷、お前は犬なんでしょう!犬が人間の言葉を話すんじゃないわよ、生意気な!」

「は、はい、申し訳ご…いえ、ワン、ワン!」

 慌てて犬の鳴き真似で返事をし直した雅治を、夏美は更に叱りつけた。

「それに何でお前は、膝を絨毯に着けているのよ!犬が歩く時に、地面に膝を着けるとでも思っているの?少しは犬らしく、膝を着けずに四つん這いでお回り!」

「は…ワン、ワン」

 一瞬、はいと言いそうになった雅治は、犬の鳴き真似で返事をして、夏美に言われた通りに膝を着けないようにして、四つん這いで広い仏間を這い回り始めた。膝を絨毯に着けないようにすると、自然に腰が高くなり、尻を左右に振って這い進む、惨めで恥ずかしい格好になった。リードを手にして雅治の後をついて行く夏美は、彼が自分の命令通りに惨めな四つん這いの姿で這い回るのを後ろから見て、自分が段々と興奮していくのを自覚した。夏美は雅治の後ろから、彼の股間でぶらぶらしているものを乗馬鞭の先でつつきながら、

「うふふ、お前が野良犬みたいに、お股の見苦しいものをぶらつかせて這い回っている姿を、仏壇からお義母様がご覧になっているわよ…お前、恥ずかしくないの?」

と意地悪く蔑んだ。ちらりと仏壇を見た四つん這いの雅治は、遺影の妻と目が合い、急に羞恥心が湧き上がって顔が紅潮した。それでも今の雅治には、

「ワン、ワン」

と犬の鳴き真似で夏美に答えて、突き上げて尻を振りながら、仏間を這い回ることしか出来なかった。

 雅治に仏間を三、四周這い回らせた夏美は、

「男奴隷、お座り!」

と彼に命じた。腰を高くして尻を突き上げるきつい姿勢で這い回っていた雅治は、これ幸いと直ぐ絨毯に正坐した。雅治が正坐した場所は、丁度仏壇の前だった。夏美は雅治に、

「男奴隷、仏壇のお義母様の方を向いて、チンチンしてご覧…両膝は大きく広げて、お股の醜いものをお義母様に見てもらいなさい!」

と酷い命令を下した。雅治は恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、仏壇にある妻の遺影の前でチンチンのポーズを取った。夏美は続けて、

「お義母様の遺影を見ながら、ハアッハアッと犬みたいに喘ぎながら、腰を振りなさい。決して、お義母様の遺影から、目を逸らすんじゃないわよ!」

と命じた。夏美は、雅治が妻の遺影を見た際、恥ずかしさで顔を赤くしたのを見過ごさず、彼を更に辱めるために、そんな残酷な命令をしたのだった。雅治は恥ずかしさに堪え、妻の遺影を見据えたまま赤い顔でチンチンをして、腰を振って股間のものをぶらぶらと揺らせた。しかし、その恥ずかしさが雅治を一層興奮させ、股間のものは下腹を叩く程、更に硬くなってしまった。それを見た夏美は、

「ふんっ、お義母様の遺影の前で、そんな恥ずかしい姿を晒して、よく興奮出来るものね、この変態!」

と雅治を罵り、リードをぐいっと引いて、彼を後ろにひっくり返した。夏美はしゃがんで、雅治の首輪からリードを外しながら、

「男奴隷、犬はもういいから、次は馬におなり!」

と命令した。

「は、はい、夏美様…」

 雅治は直ぐに起き上がると、押し入れのロッカーから手綱付きの轡(くつわ)と膝当てパットを取り出し、自分の体に装着した。それから一組の拍車を取り出して、夏美の足元に這い寄り、仁王立ちになっている彼女の黒革ブーツに取り付けた。

 雅治は夏美の足元にひれ伏して、

「夏美様、この男奴隷を馬にして、ご存分にお使い下さいませ」

と言ったつもりだったが、口に咥え込んだ轡のために、モガモガと意味が分からない言葉になってしまった。

「何言ってるのか、さっぱり分からないわ…いいから、さっさと四つん這いにおなり!」

 夏美は四つん這いになった雅治の背中に跨ると、乗馬鞭で彼の尻を一打ちし、拍車で下腹を蹴って、

「さあ、男奴隷、さっさとお進み!」

と命じた。ナイスバディで上背がある夏美は結構体重があり、小柄で痩せている雅治にはかなりの負担であった。それでも雅治は、よたよたと懸命に這い進み始めた。夏美は男を支配し、馬にして乗り回すことで更に興奮し、陰部をしとどに濡らした。

「何てノロマな馬なの!これじゃ、馬じゃなくて豚だわ。もっと早くお走り!」



 興奮した夏美は乗馬鞭を振って、雅治の尻や太腿を打ち、拍車で何度も下腹を蹴りつけ、速く進むよう促した。焼け火箸を当てられるような乗馬鞭の痛みと、下腹を切り裂かれるような拍車の痛みに急き立てられた雅治は、轡を咥えた口から悲痛な呻き声を漏らしながら、必死に手足を動かして這い進んだ。しかし、夏美の乗馬鞭と拍車の非情な督促は止まらなかった。何しろ、雅治のリクエスト通りに、彼を乗り潰してお仕置きするのが目的なので、夏美は情け容赦無く彼を急き立てた。

 結局、広い仏間を三周したところで、雅治は絨毯に突っ伏して潰れてしまった。夏美はうつ伏せている雅治の背中から立ち上がり、

「男奴隷、勝手に潰れたりして、私を転げ落とすつもりなのかい?絶対、許さなからね!それに大体、誰が休んでいいと言ったのよ!」

と怒鳴りつけ、彼の背中と尻を乗馬鞭で打ち据えた。しかし、体力と気力を使い果たして息を切らせている雅治は、轡を咥えた口からかすれた哀れな悲鳴を漏らすことしか出来なかった。

「馬にすらなれないなんて、情けない男奴隷だね…いつまでも寝てないで、早く轡と膝当てをお外し!」

 夏美に命じられた雅治は、よろよろと体を起こし、手綱付き轡と膝当てパットを外した。

「男奴隷、手枷とロープと九尾鞭を持っておいで!」

「は、はい、ただ今…」

 夏美に命令され、雅治は押し入れのロッカーから言われた物を取り出し、彼女の足元に這い寄り、跪いて差し出した。夏美は革製の手枷を手にすると、

「男奴隷、両手をお出し!」

と命じて、雅治の両手首に嵌めて拘束し、手枷にロープを結び付けた。

「男奴隷、立って鴨居の下にお行き!」

「はい、夏美様…」

 跪いていた雅治は立ち上がり、鴨居の下に移動した。夏美は手枷に結び付けたロープを欄間の隙間に通し、雅治が両手を上げて足裏が絨毯にぎりぎり着く高さに引っ張って彼を吊るすと、ロープの端を柱に括り付けて固定した。夏美は絨毯の九尾鞭を拾うと、鴨居に吊るされている雅治の前に仁王立ちとなった。

「男奴隷、乗馬を楽しんでいる女御主人様の許しも得ずに、勝手にへたばって潰れたら、どんな目に遭うか分かっているんだろうねぇ…」

「ひっ、ひいぃっ、夏美様、どうかお許しを…何とぞお慈悲を…」

 雅治は恐怖に震えた声で夏美に慈悲を請うたが、その震え声とは裏腹に、今から受けるお仕置きの期待に目を輝かせ、股間のものを硬く上向かせていた。

「お許しを、お慈悲をって、その台詞は聞き飽きたわよ!甘えるのも、いい加減におし!」

 夏美は九尾鞭を振り上げると、雅治の胸を力強く横殴りに打った。

「ギャアァーッ」

 胸の生皮を剥ぎ取られた様な痛みに、雅治の口から悲鳴が上がった。

「いくらこの家が防音仕様だからと言って、この程度の鞭で大げさに喚くんじゃないわよ!」

 雅治を叱りつけた夏美は、黒色のパンティを脱いで、

「男奴隷、口をお開け!」

と命令した。雅治がおずおずと口を開くと、夏美は黒色パンティを丸めて、彼の口に押し込んだ。その黒色パンティは、興奮している夏美の淫液でぐっしょり濡れており、雅治の口中に饐えたような女のきつい臭いが充満して、それが鼻の奥まで届き、彼の頭をクラクラさせた。しかし、その臭いは雅治のものを、下腹を叩く程に更に硬く屹立させた。

 昂った夏美は、胸から黒色ブラジャーをもどかしそうに剥ぎ取って投げ捨て、黒革ブーツを履いただけの全裸となった。

「男奴隷、今からお仕置きだよ…覚悟おし!」

 夏美は、まるで自分に言い聞かせて、自分に活を入れるかのように大声を出すと、九尾鞭で雅治の全身を滅多打ちにし始めた。ただ、眼を損傷する虞があるので、顔だけは打たなかった。

 雅治は全身の皮膚と肉が削ぎ取られていくような苦痛に、黒色パンティを押し込まれた口からくぐもった悲鳴を上げて、苦悶した。しかし、興奮で顔を上気させて目を吊り上げ、髪を振り乱し豊かな乳房を揺らせて自分を鞭打っている、凄絶に美しい夏美を目の当たりにした雅治は、自分がまるで鞭の女神に生贄として捧げられた殉教者のように感じられた。夏美が振るう九尾鞭の嵐の中で、全身を切り刻まれるような苦痛に悶え苦しみながらも、なぜだか雅治には周りが黄金色に輝いて見え、いつの間にか射精して失神してしまった。そして、雅治を酷く痛めつけ、射精させて失神まで追い込んだ夏美も、強いエクスタシーを感じて身体を打ち震えさせた。

 




 夜、リビングで読書していた夏美は、読み終わった本を閉じて、テーブルに置いた。テーブルには、雅治が差し出した本が積まれていた。夏美がテーブルに置いているハンドベルを手にし、一振りしてチリンと澄んだ音を立てると、直ぐに全裸に首輪を着けただけの雅治が、小走りでリビングにやって来た。

 雅治は、椅子に座っている夏美の足元にひれ伏し、

「夏美様、お呼びでしょうか?」

と用件を伺った。

「顔をお上げ、男奴隷」

 雅治が上体を起こして、正坐の姿勢になると、夏美は、

「お前が持って来た本は、全部一通り読んだから返すわ」

と言って、テーブルに積んでいる八冊の本を顎でしゃくった。

「私めの本をお読み下さり、身に余る光栄でございます。夏美様、誠にありがとうございます」

 雅治は土下座して謝意を述べると、立ち上がってテーブルの本に手を掛けた。すると、夏美は雅治に、

「男奴隷、他に面白そうな本は、持ってないの?」

と尋ねた。雅治はパッと顔を明るくし、

「夏美様、少々お待ち下さいませ」

と言うと、テーブルの本を持って、小走りで自分の部屋に戻って行った。しばらくして、雅治が何冊かの本を抱え、再び小走りでリビングにやって来た。雅治は持って来た本をテーブルに積んで、再度夏美の足元でひれ伏し、

「夏美様、これらの本でしたら、夏美様にお楽しみ戴けるかと存じ上げます。是非とも、一読なさって下さいませ」

と推薦した。夏美が本の背表紙をざっと見てみると、沼正三作「家畜人ヤプー」「ある夢想家の手帖から・金髪のドミナ」「ある夢想家の手帖から・おまる幻想」「ある夢想家の手帖から・家畜への変身」「ある夢想家の手帖から・奴隷の歓喜」「ある夢想家の手帖から・女性上位願望」「ある夢想家の手帖から・黒女皇」の七冊となっていた。

「ふ~ん…まあ、お前が薦めるのなら、間違い無さそうね…」

「他にもまだ、お薦めの本があるのですが、まずはこれらの本をお試し下さいませ…それでは、失礼致します」

 雅治が立ち上がって、自分の部屋に戻ろうとすると、

「男奴隷、ちょっとお待ち!」

と夏美が呼び止めた。雅治は夏美の足元で正座し、

「何でございましょう?」

と彼女に尋ねた。夏美は今まで見せたことが無い、煽情的なねっとりとした目で雅治を見つめ、

「お前の本を読んだら、体が火照って疼いてきたのよ。武志さんは海外出張中で長いこと留守だし…だから、お前を舐め犬に使ってあげるわ。お前の舌で、私の火照りを鎮めて頂戴」

と言って、椅子から立ち上がった。夏美は、床に正坐して驚いている雅治の目の前で、何の恥じらいも無くスエットの下衣とパンティを一緒に引き下ろして下半身裸になり、再び椅子に座って脚を開いた。

「男奴隷、何をぼんやりしてるのよ!さっさと舐め犬におなり!」

 夏美の大胆な行動に目を見開いて唖然としていた雅治は、彼女に一喝されて、はっと気が付いたように、

「は、はい、夏美様…失礼致します」

と言って、開かれた脚の奥にある陰部に顔を近づけた。雅治が、濃い陰毛に縁どられた夏美の赤くぬめった陰唇に顔を近づけていくと、饐えたような女の強い臭いが鼻を突き、眩暈がする程頭がクラクラして、股間のものを猛々しくそそり立たせた。雅治は自分が、強い芳香を放つ美しい花弁に吸い寄せられる虫けらのように思えた。

 雅治が夏美の陰唇に口を着け、舌を伸ばして舐め始めると、頭上から切なそうな吐息が聞こえた。雅治は、舌を動かして陰唇を舐め回してから、唇で陰核を挟んで徐々に強く吸い、吸いながら舌先で陰核をつついたり舐めたりする等、夏美に喜んでもらおうと出来る限りの舌奉仕に務めた。夏美も感じているのか、両手で雅治の白髪を掴んで引き寄せて、彼の顔を自分の陰部へ密着させ、たくましい太腿で力強く挟み込んだ。雅治は呼吸が満足に出来ずに窒息しそうになったが、それでも懸命に舌を動かして、舌奉仕を続けた。

 窒息して意識を失うかもしれないと雅治が思った瞬間、夏美はよがり声を上げ、背を仰け反らせて絶頂を迎えた。夏美が絶頂を迎えた瞬間、雅治の顔は最大限の力で陰部に押し付けられ、頬骨が折れそうな程に太腿で締め上げられた。しかし、直ぐに夏美の力が抜けて、両手が掴んでいた白髪を放して両脚が開いたので、雅治は解放されて、ようやく呼吸が出来るようになった。椅子に座っている夏美は、ゼイゼイと荒い息をして床にへたり込んでいる雅治の傍で、しばらく余韻に浸っていた。

 少し落ち着いた夏美は、床に座り込んでいる雅治を見下し、声を掛けた。

「男奴隷、舌の使い方は、なかなか良かったわよ…さすがは年の功ね」

 雅治は急いで正坐し直し、夏美にひれ伏して、

「夏美様、お褒め戴き、誠にありがとうございます。光栄でございます」

と謝意を述べた。しかし、夏美の次の問い掛けは、雅治を驚かせた。

「お前にご褒美をあげなくてはいけないわね…男奴隷、私のおしっこが飲める?」

「えっ…ええっ!?私めが、夏美様のおしっこ…いえ、聖水を戴けるのですか?」

 夏美は微笑んで、雅治に尋ねた。

「そうよ、丁度催してきたから、私のおしっこを飲ませてあげる…それでお前は、今まで女のおしっこを飲んだことはあるの?」

 雅治は、首を強く横に振った。

「いいえ、ございません…想像したことは何度もありますが、実際に飲んだことはございません」

「そう、初めてなら、きっとこぼしてしまうわね…バスルームに行くわよ、男奴隷!」

 夏美は椅子から立ち上がり、下半身裸のままで浴室に向かった。夏美の後を、些か焦った様子で雅治がついて行った。二人で広い浴室に入ると、夏美は雅治に命じた。

「男奴隷、仰向けになって、大きく口を開けなさい!」

「はい、かしこまりました、夏美様」

 雅治は嬉々として浴室の床に横たわり、仰向けになると口を大きく開いた。夏美は、仰向いた雅治の顔を足で挟むように立つと、ゆっくりと腰を下ろした。先程舌奉仕を行ったばかりの、濃い陰毛に縁どられ赤くぬめった陰唇が、自分の顔面に向かってゆっくり降りて来るのを見上げている雅治は、その壮大な迫力に感動を覚えた。夏美の陰部が、雅治の口元から5cm位の距離でピタリと止まった。

 しやがんでいる夏美は、仰向いている雅治の顔を見下し、

「男奴隷、私のおしっこを、出来る限りこぼさずに飲むのよ」

と注意した。口を開けたままの雅治が答えようとした瞬間、夏美の陰唇が震え、不意に黄色い奔流が噴出した。雅治の開いた口に勢いよく注ぎ込まれた夏美の尿は、想像していたような甘露とは程遠く、強烈なアンモニア臭と舌を刺すような刺激的な味がして喉につっかえ、とても飲める代物ではなかった。しかし雅治は、女御主人様である美しい夏美の身体から湧き出た聖水を、一滴もこぼす訳にはいかないと自分に言い聞かせ、喉を上下させて必死に飲み下した。夏美の尿は喉を焼き、胃に重く溜まっていって不快に感じたが、これも奴隷の喜びだと、雅治は思い込むように努めた。それでも完璧には飲み下せず、口の端から結構な量の尿がこぼれてしまった。雅治に自分の排尿を飲ませている夏美は、舌奉仕の時とはまた違った悦楽を感じて、うっとりとした表情を浮かべた。

 排尿を終えた夏美は、仰向いている雅治の顔を覗き込み、

「男奴隷、おしっこが済んだから、お前の舌で後始末して」

と言いつけた。雅治は、

「はい、かしこまりました、夏美様」

と返事をして、首をややもたげ、舌を伸ばして尿で濡れている夏美の陰部を舐め始めた。夏美の濡れた陰部を舐めた雅治は、舌に改めて尿の刺激的な味が拡がるのを感じ、自分が人間便器に使われたことを改めて認識した。

「舌で舐めるだけじゃなくて、唇も使って、内に残っている尿も吸い取りなさい」

 夏美に指示された雅治が、言われた通りに唇を尿道口に密着させ、残存している尿を吸い取ると、口中にアンモニア臭が充満して咽そうになった。先程舌奉仕をさせたばかりなので陰部が敏感になっており、雅治の舌と唇の動きに夏美は内心乱れそうになったが、女御主人様の威厳を保つために、敢えて平静を装った。雅治の口を使った後始末が済むと、夏美は立ち上がって彼の顔を見下し、傲慢に言い放った。

「男奴隷、私のおしっこをかなりこぼしちゃったわね…まあ、今回は初めてみたいだから、お仕置きは勘弁してあげるわ。もっとも、次にこぼしたら、鞭で打つからね!」

「は、はい、承知致しました、夏美様…」

 まだ、自分の顔の両側に夏美の足があるので、雅治は動けずに仰向いたままで返事をした。夏美は言葉を続けた。

「これからは、私のおしっこを一滴もこぼさずに、飲めるように精進おし。そうすれば、私が催した時に、いつでもどこでもお前を呼びつけて、おしっこ出来るからね。お前は、歩くおまるになるのよ…それと、明日からお前には、お茶や水を飲むことは許さないわ。勝手に飲んだら、きついお仕置きをするからね。その代わりに、私のおしっこを飲ませてあげる。その方が、お前も嬉しいでしょう?楽しみにしてなさい、男奴隷…じゃあ、私は寝るからね、お休み」

 夏美はそう言うと、仰向けで横たわっている雅治を残し、さっさと浴室を出て行った。雅治はよろよろと起き上がり、夏美の尿で濡れた自分の体と浴室の床を、シャワーで洗い流した。浴室を出た雅治は、バスタオルで体を拭きながら、ふと考えた。

(嫁の夏美さんをサディスティンに導いたのは自分だが、彼女の目覚めたサディズムが自分の想定を遥かに超えて、暴走し始めているのではないだろうか…)

 恐ろしい推測をした雅治は、背筋に悪寒が走った。

 

 夏美は昨日浴室で雅治に言ったことを、本日の朝食から早速実行に移した。夏美が食べ残した朝食をボウルに入れ、唾を吐き掛けてから、リビングの床に正坐しておあずけで待っている雅治に与えるのは変わらなかった。しかし、夏美は雅治の目の前で、パジャマの下衣とパンティを一緒に引き下ろして下半身裸になり、今まで彼女が口をゆすいだお茶を吐き出すボウルに跨って、放尿したのだった。

 首輪を着けただけの全裸で正坐していた雅治は、驚きで目を丸くした。夏美は最早、雅治を舅どころか人間の男とも思わずに、犬猫の動物の類か虫けら同然と見なし、彼の目前で下半身裸になって放尿するのに、何の恥ずかしさも感じていないようだった。

 放尿を終えた夏美は、唖然とした顔で正座している雅治の前で、両手を腰にして仁王立ちとなり、

「男奴隷、ぼんやりしてないで、お前の口で後始末おし!」

と命じて腰を突き出し、自分の陰部を雅治の口元に近づけた。

「は、はい、夏美様…」

 些か震えた声で返事をした雅治は、首を前に突き出して舌を伸ばし、ぷんと尿の臭いがする夏美の濡れた陰部を舐め回し、唇を尿道口に着けて尿を吸った。口中に尿の刺激的な味が拡がり、鼻の奥まで強いアンモニア臭が充満して、雅治は凄く惨めな気持ちになった。しかし、こんな惨めな状況でも、股間のものがたちまち硬く屹立してしまい、雅治は我ながらマゾヒストの浅ましさに呆れてしまった。夏美は雅治の舌と唇の動きに、内心うっとりとして興奮し始めていた。

 雅治の口による後始末が済むと、夏美は彼から離れて、パンティとパジャマの下衣を穿き、

「男奴隷、朝の餌をさっさと食べてしまいなさい」

と声を掛けた。雅治はひれ伏して、

「はい、ありがとうございます、夏美様」

と礼を言い、夏美の残飯と尿がそれぞれ入っているボウルに顔を近づけた。唾を吐き掛けられた残飯は、まあいつも通りなのだが、ボウルに入れられた尿は、湯気が立つ位のアンモニア臭が目に染みる程きつくて、雅治は飲めるかどうか自信が無かった。昨日の浴室では、夏美の陰部から雅治の口中に尿が直接注ぎ込まれたので、まだ勢いである程度は飲めたのだが、ボウルに入れられて空気に割と長く触れた尿のアンモニア臭が、これ程きついとは想像もしてなかった。

 躊躇っている雅治の顔が、尿の入ったボウルの上で停まっていると、夏美はじれったそうに、

「男奴隷、何をグズグズしているのよ!この私がわざわざ、お前に飲み物を用意してあげたのに、飲めないとでも言うつもり?男奴隷のくせに、生意気な!」

と大声を出し、雅治の頭を踏みつけ、彼の顔をボウルの尿に漬けた。夏美が雅治の頭から足を外すと、彼は尿に塗れた顔を上げて、ゴホゴホと咳き込んだ。しかし、これで雅治は吹っ切れたのか、自分から尿の入ったボウルに顔を突っ込み、犬の様にピチャピチャと舌で尿を掬って飲み始めた。

 夏美は、雅治がピチャピチャと音を立てて自分の尿を飲んでいるのを、蔑んだ目で見下し、

「ふんっ、犬や豚だって、おしっこなんて口にしないわよ。そんな汚いものを飲むなんて、お前は犬畜生にも劣る、肥溜めで蠢いているうじ虫と同類だわ!」

と酷く侮蔑した。夏美の尿を舌で掬って飲んでいる雅治は、彼女の酷い蔑みに心が深く傷つき、強い屈辱感が湧き出て、目に涙が浮かんできた。しかし、嫁の夏美に蔑まれる、その強い屈辱感はマゾヒストの雅治をより興奮させ、股間で既に屹立しているものの硬度は、更に増していた。自分の尿を犬の様に音を立てて飲んでいる雅治を、仁王立ちになって見下している夏美も興奮しており、陰部をしっとりと濡らしていたのだった。

 

 朝食が終わると、雅治は洗顔してから自分の部屋に戻り、小説の執筆を始めた。夏美はパジャマからスエットに着替えて、洗い物をしてから、掃除と洗濯に取り掛かった。古式の広い日本家屋のため、本格的に掃除すると時間がいくらあっても足りないので、夏美は掃除する部屋を日によってローテーションで変え、要所だけを掃除するようにしていた。

 掃除と洗濯を手早く済ませた夏美は、コーヒーを淹れて、雅治が二回目に差し出した本をリビングで読み始めた。

 

 テーブルに置いたスマホのアラームが鳴った。夏美がアラームを止めて壁の時計を見ると、時刻は午前10時になっていた。夏美は読んでいた本を閉じてテーブルに置き、ハンドベルを振ってチリンと澄んだ音を立てると、直ぐに全裸に首輪だけの雅治が小走りでリビングにやって来た。雅治は夏美の足元にひれ伏し、

「夏美様、何か御用でしょうか?」

と尋ねた。夏美は、

「頑張って小説を書いているお前に、コーヒーでも飲ませてあげようと思ってね」

と答え、冷めたコーヒーを口でゆすいで、ボウルに吐き出すといった行為を四、五回繰り返し、顔を上げた雅治の前にそのボウルを置いた。夏美は雅治に、

「まあ、あんまり根を詰めずに、一服しなさい」

と言って、ボウルに吐き出したコーヒーを飲むよう促した。ボウルの中の唾で泡立ったコーヒーを見た雅治は、

「あ、ありがとうございます、夏美様」

と礼を述べて顔をボウルに突っ込み、舌でピチャピチャと音を立てて掬い、飲み始めた。雅治は、ひょっとして尿の混じったコーヒーでも飲まされるのかと心配したが、いつもの口でゆすいだコーヒーだったので、内心ホッとしていた。

 雅治がボウルに入ったコーヒーを大体飲んだところで、夏美は彼に尋ねた。

「男奴隷、小説の執筆は、順調に進んでいるの?」

「はい、夏美様のご協力のおかげで、かなり進みました。先程、新しい責めの場面を思いついたところです…それで、畏れながら夏美様に、一つお願いがあるのですが…」

 夏美は苦笑いを浮かべながら、先を促した。

「分かったわよ、どんな場面なの?」

「はい、それは…」

 雅治は夏美に、責めの場面の説明を始めた。それは、美容と健康のために総合格闘技のジムに通っている嫁が、もし舅が勝ったら本日の鞭打ちは無しにするという条件で、舅に格闘技の勝負を受けさせ、猫がネズミを嬲るように嫁が舅を叩きのめし、負けた罰として舅を吊るしてサンドバッグにしてから、敗者は徹底的に蹂躙されるものだと嫁は言って、ペニスバンドで舅を犯して徹底的に辱める、といった内容だった。

「…それでお前は、私にその場面を体現して欲しい訳ね?」

「はい、夏美様…主人公の気持ちになりきるために、是非ともお願い致します」

 夏美は、足元でひれ伏してお願いしている雅治に、

「いいわ…私は動きやすい服装に着替えて来るから、お前も準備を済ませて、仏間に行きなさい」

と応えて椅子から立ち上がり、自分の部屋へ向かった。

 夏美は自分の部屋で、スエットの上下と下着を脱ぎ、赤色ビキニの水着に着替えた。そして、結婚前に通っていたフィットネスクラブでボクササイズに使っていたグローブを押し入れから取り出し、仏間に向かった。

夏美が仏間に入りしばらくして、全裸に首輪だけの雅治が入って来た。雅治は赤色ビキニ姿の夏美を見ると、彼女の足元でひれ伏し、

「夏美様、よろしくお願い申し上げます」

と挨拶した。夏美はグローブを仏間の隅に放り、

「男奴隷、早速始めるわよ…とっとと掛かってきなさい!」

と雅治に言った。雅治は立ち上がると早速、

「男のワシが、女なんかに負けてたまるか!覚悟しろ!」

と喚いて、夏美の腰にタックルをするような動作を手加減して行った。すると夏美は雅治の左腕を取り、肘が折れそうな角度に捻りながら体を捌いて、投げ飛ばした。絨毯に背中から勢いよく叩きつけられた雅治は、

「グェッ」

とヒキガエルが踏み潰されたような声を出し、背中を強く打った衝撃で呼吸が出来なくなってしばらく悶え苦しんだ。何とか呼吸が出来るようになった雅治が、苦しさで涙をこぼしながらも立ち上がると、夏美は、

「私はこう見えても、学生時代は合気道部だったのよ…だから遠慮しないで、本気で掛かってらっしゃい」

と些か馬鹿にしたような口調で言った。雅治は顔を歪め、

「わあーっ」

と声を出して、夏美に全力で掴み掛かった。しかし、夏美から顎に掌底の当身を喰らい、体を仰け反らせたところで、足を払われながら顔を下に押され、頭から絨毯に投げられた。夏美に投げられた瞬間、雅治は反射的に自分の体を捻って倒れたので、何とか頭部への直撃は避けられたのだが、肩にかなりの衝撃を受けてしまった。それでも、雅治はよろめきながらも気力で立ち上がり、夏美に本気で向かっていった。しかし、当身を何発も喰らったり、腕を取られては捻じられて投げ飛ばされるの連続で、体にダメージがどんどん蓄積されて、遂には立てなくなってしまった。夏美より背が低くて痩せている雅治は、本気で全力を出しても、体格が良くて武道の心得がある夏美には、とても敵わなかった。

 夏美は、絨毯で仰向けに倒れて喘いでいる雅治の顔を踏みにじり、

「男奴隷、どうしたの?もう、お終い?男のくせに、女の私に負けて口惜しくないの?お前も男なら立ち上がって、掛かってきなさいよ」

と嘲った。本気で夏美に向かっていった雅治は、女に負けた口惜しさと屈辱で鼻の奥が熱くなり、目に涙を浮かべた。だが、その耐え難い屈辱感がマゾヒストの雅治を昂らせ、散々叩きのめされてまともに動けない体にも関わらず、股間のものが見る見る硬くなってしまった。夏美も、学生時代から久しぶりに男を投げ飛ばし、叩きのめした爽快感で気が昂り、興奮して陰部が熱く疼いた。

 夏美が雅治の顔から足を外したので、彼はその場でよろよろと土下座し、

「夏美様、私めは、夏美様にとても敵いません。どうかもう、お許し下さいませ」

と言って、降参した。夏美は、

「あらあら、男奴隷はもう降参なの…それじゃあ、四つん這いにおなり!」

と雅治に命じて、押し入れのロッカーからアナルフックとローション、それに手錠と細いロープを取り出した。夏美はアナルフックの球状になっている先端にローションを塗りたくると、四つん這いになっている雅治の肛門に宛がった。夏美はアナルフックを肛門に押し込もうとしたが、その手をピタリと止め、雅治に尋ねた。

「男奴隷、ちゃんと浣腸は済ませているでしょうね?」

「はい、勿論でございます、夏美様」

 雅治の返事を聞いた夏美は、安心してアナルフックを彼の肛門に力を込めて挿入した。直腸に異物を押し込まれる異様な感覚に、雅治の口から呻き声が漏れた。以前の調教で、夏美が雅治の肛門を電動バイブで責め立てた際に、バイブに大便が付着して不快な思いをしたので、それからは調教する前には必ず自分で浣腸しておくよう、雅治に義務付けていたのだ。

 夏美は、アナルフック端の輪の部分に細いロープを通して、しっかりと結び付けた。それから力強くロープを上に引っ張り、

「男奴隷、とっととお立ち!」

と命じた。まともに体が動かず、満足に立てない雅治であったが、肛門に挿入されたアナルフックを引っ張り上げられてはさすがに堪らず、動けない体を気力で動かして、何とか立ち上がった。

「男奴隷、両手を背中にお回し!」

 夏美に命じられた雅治が両手を後ろに回すと、彼女は手際よく後ろ手錠を掛けた。

「男奴隷、こっちに来るんだよ!」

 雅治は、夏美にアナルフックに結び付けられた細いロープを引かれて、鴨居の下に連れて来られた。夏美は欄間の隙間に細ロープを通して、雅治が直立出来る高さに調節してロープを引き、ロープの端を柱に括り付けて、彼を鴨居に吊った。それから赤色ビキニの上下を脱いで全裸になり、

「男奴隷、口を大きくお開け!」

と雅治に命じた。雅治が出来るだけ大きく口を開けると、夏美は赤色ビキニの下を裏返しにして丸め、彼の口に押し込んだ。それから、赤色ビキニの上を雅治の口元から後頭部に巻き付けて括り、猿ぐつわの代わりにした。赤色ビキニの下は興奮している夏美の淫液でしとどに濡れており、雅治の口中と鼻の奥に女の饐えたようなきつい臭いが充満した。雅治は頭がクラクラし、アナルフックの球状になっている先端が前立腺を刺激しているのもあって、股間の物が下腹を叩く程に硬く屹立した。

 全裸の夏美は、仏間の隅に放っておいたグローブを拾い上げると、両手に装着し、アナルフックで鴨居に吊られている雅治の前に立った。

「男奴隷、女の私に負けて戦えなくなったお前は、サンドバッグ位にしか使い道が無いから、ボクササイズの練習台になってもらうわ…それから、前もって言っておくけど、私のビキニをしっかり噛み締めておくんだよ。そうしないと、顔にパンチを受けた時に、歯で口の中をざっくり切ってしまうからね…じゃあ、いくわよ!」

 雅治に注意した夏美は、ボクシングの構えになり、彼の身体にパンチを入れ始めた。さすがに鼻は避けたが、ボクササイズで習ったコンビネーションで雅治の頬や顎に次々とパンチを放ち、腹にボディーブローを叩き込んだ。雅治は悶え苦しんだが、興奮で顔を上気させて目を輝かせ、豊満な乳房を揺らせながら自分を殴り続ける、グローブだけを両手に着けた全裸の美しい夏美を目の当たりにすると、このまま殴り殺されてもいいとさえ思えた。雅治は連続で殴られて痛い目に遭っているにも関わらず、興奮とアナルフックによる前立腺への刺激のため、股間のものの硬い屹立は萎える気配が無かった。

 夏美も興奮はしていたが、冷静な部分は残していた。両腕を鴨居に吊っているのなら、雅治を失神させても構わないだろうが、アナルフックで肛門を吊っているので、彼が意識を失って倒れると、肛門裂傷や直腸の損傷等を起こし、重篤な後遺症を生じる虞がある。そのため、次々とパンチを叩き込んではいるが、細心の注意を払い、雅治が決して気絶しないように手加減していた。

 雅治の全身にパンチを打ち込み、いい加減サンドバッグとして使ってから、夏美はようやくパンチを振るうのを止めた。夏美は些か息を乱して、両手のグローブを外し、絨毯に放った。それから、柱に括り付けた細いロープを解いて緩めると、後ろ手錠姿の雅治は膝から崩れ落ちて、絨毯に横倒しになった。夏美はしゃがんで、ぐったりと横倒しになっている雅治の肛門からアナルフック引き抜き、彼の口元に巻いた赤色ビキニの上を解いて、口中から赤色ビキニの下を引っ張り出した。口中の詰め物が無くなった雅治は、呼吸が楽になって、ハアハアと荒い息をした。夏美は雅治に、

「男奴隷、これで少しは、私の強さと恐さが分かったかい?」

と勝ち誇った口調で尋ねた。涙目になっている雅治は、後ろ手錠姿の不自由な体をよじらせて何とか正坐し、上体を倒して額を絨毯に着け、夏美にひれ伏した格好で返事をした。

「はい、夏美様…夏美様がどれ程お強いか、どれ程恐ろしいか、身に染みて分かりました…もう二度と逆らったり致しませんので、何とぞお許し下さいませ…」

 雅治の態度と哀願に満足した夏美は、微笑を浮かべ、

「男奴隷、顔をお上げ!」

と命じた。雅治が上体を起こすと、夏美は後ろ向きになり、正坐している彼の顔に尻を突き出した。夏美は自分の両手で尻たぶを広げて、肛門を露わにすると、

「男奴隷、もう二度と逆らわないと言ったわね…その証に、私のアナルを舐めてご覧!女の一番汚いところを舐めて許しを請うのが、女と格闘して負けた、情けない最低の男に相応しいわよね!」

と雅治に言い放った。雅治は一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに、

「ああっ、夏美様…卑しい私めにとって、夏美様の聖なる菊座に舌を触れさせて戴けるなんて、却って分不相応なご褒美でございます。ありがとうございます、喜んで舐めさせて戴きます、夏美様」

と礼を述べて首を前に出し、舌を伸ばせて夏美の肛門を舐め始めた。

 夏美の肛門の襞には、ほんの微かに便が残留していたのか、雅治が舌を這わすと僅かにえぐい苦みを感じ、口中と鼻の奥に独特な臭いが拡がった。その苦みと臭いは雅治に、自分は女の肛門を舐めさせられる、最低でうじ虫同然の奴隷なんだと思い知らせ、強い屈辱感を覚えて身震いした。しかし、その屈辱感がマゾヒストである雅治を更に昂らせ、股間で既にそびえ立っているものの硬度と仰角を維持させていた。

 神経が集中して敏感な肛門を舐めさせている夏美は、その気持ちよさと、男に肛門を舐めさせている優越感にうっとりとなり、雅治に酷いことを宣言した。

「男奴隷、既に私がおしっこした後始末をお前の口でさせているけど、これからは大きい方をした後始末も同じ様にさせるからね!お前は、私のトイレットペーパーに使われるんだよ。嬉しいでしょう?」

 夏美の肛門を懸命に舐めていた雅治は、舐めるのを一旦中断し、

「はい、夏美様。この下賤な私めが、夏美様にお使い戴けるなんて、身に余る光栄でございます」

と返事をして、また夏美の尻に顔を埋め、肛門を舐め続けた。そのまま、しばらく肛門を舐めさせていた夏美は、そろそろ雅治のリクエスト通りにしなくてはと考え、

「男奴隷、いつまでも舐めてるんじゃないわよ、この変態!」

と理不尽に言い放ち、急に尻を後ろに突き出して雅治の顔を押し、彼を後ろに倒した。

 全裸の夏美は押し入れのロッカーからペニスバンドを取り出し、自分の腰に装着した。夏美はペニスバンドのディルドゥ部分にローションをたっぷりと塗り付けながら、

「男奴隷、頭を絨毯に着けて、膝立ちにおなり!」

と既に正坐に戻っている後ろ手錠姿の雅治に命令した。雅治が命令通りに、尻を上に突き上げた惨めな姿勢を取ると、夏美は後ろに回って膝を着き、両手で彼の腰をしっかり掴んだ。

「女と闘って負けた男は、勝った女から酷く蹂躙されて、徹底的に辱められるんだよ…まずは、お前を犯してやる!男奴隷、覚悟おし!」

 夏美はそう言うと、ペニスバンドのディルドゥ部分先端を、雅治の肛門に宛がった。雅治は腰を揺らし、

「ああんっ、そんな…いや、許して、お願い…」

と懇願したが、夏美は、

「ふんっ、女言葉になってるわよ!オカマみたいで、気持ち悪いわ!」

と言って、雅治の腰を掴んだ両手を引きながら、力強く腰を突き出した。先程アナルフックを肛門に挿していたためか、ディルドゥ部分は予想よりスムーズに挿入した。夏美はゆっくりと腰を前後に動かしながら、

「気分はどう?お前は男のくせに、女から犯されているのよ。口惜しくない?恥ずかしくないの?」

と意地悪く雅治に尋ねた。前立腺を刺激されている雅治は、

「ああっ、恥ずかしいですぅ、夏美様、感じる、感じてしまいますぅ…」

とよがり声で答えた。夏美は、女の身でありながら男を犯してよがらせる快感に酔いしれ、雅治をもっと辱めたくなった。

「全く、男のくせして女に犯されて感じるなんて、最低の変態だよ、お前は!」

 夏美はそう罵ると、雅治の腰を掴んでいた右手を、彼の股間で硬く屹立しているものに移動させた。夏美は右手で雅治の硬くなっているものを掴むと、腰を動かしながら、ゆっくりとしごき始めた。

「女に犯されているのに興奮して、こんなに硬くするなんて、本当に信じられない変態だね…こんなもの、こうしてやるわ!」

 夏美は雅治の硬くなっているものを強く握り、激しくしごき出した。それに合わせて、腰も前後に激しく動かし始めた。

「アァーッ、止めて、許して、お願い、イクッ、イグゥーッ」

 雅治が女言葉で絶叫し、絨毯に夥しい量の白濁液を放出したのは、それから直ぐのことだった。夏美は腰を引き、ペニスバンドのディルドゥ部分が肛門から引き抜かれると、雅治は力尽きたように横倒しになった。

 夏美は、ペニスバンドをもどかしそうに腰から外して絨毯に放ると、横倒しになって喘いでいる後ろ手錠姿の雅治の体を、足裏で押すように蹴って仰向けにした。夏美は雅治の顔を足で挟むように立つと、そのまましゃがんで濡れ濡れになっている陰部を、彼の口元に押し付けた。夏美はじれったそうに、雅治に命令した。

「男奴隷、自分だけが気持ちよくなるんじゃなくて、私も感じさせるんだよ!ぼうっとしてないで、さっさとお舐め!」

 夏美は、雅治を犯して凌辱したことで凄く興奮し、陰部が強く火照り疼いていた。この火照りを鎮めるためには、雅治の舌を使うしかないと夏美は考え、彼に舌奉仕を命じたのだった。雅治は舌を伸ばし、夏美のトロトロに濡れそぼった陰唇を舐め始めたのだが、次から次へと滴り落ちてくる淫液に咽返りそうになりながらも、彼女が満足するまで、舌の付け根が痛くなる程に酷使される羽目になってしまった。

 

 この日から、夏美は乗馬鞭を常に傍らに置くようになり、ハンドベルで呼びつけた雅治が少しでも遅かったり、ほんの些細な言葉尻や所作をとらえると、一鞭くれるようになった。また、男奴隷が人間様みたいに二本足で立ったり歩いたりするのは、分をわきまえていないという理由で、小説を執筆している時以外は、常に四つん這いでいるよう、雅治に義務付けた。雅治がついうっかり立ったりすると、夏美は叱責と共に、容赦無い乗馬鞭の一撃を見舞い、彼に悲鳴を上げさせた。

夏美はトイレで大の方を済ますと、ハンドベルを鳴らして雅治を呼びつけるようになった。勿論、宣言した通りに雅治をトイレットペーパーに使うためであるが、夏美はたとえほんの僅かでも大便を口にするのは健康を損ねる虞があると考え、ウォシュレットで肛門周辺をきれいに洗い流してから、雅治に舐めさせた。夏美は敏感な肛門を舐められる感触と優越感にうっとりし、雅治は夏美の気遣いと、彼女から肛門を舐めさせられる屈辱を与えられることに、心の底から感謝していた。

 夏美は催すと、ハンドベルで雅治を呼びつけ、彼の口に直接排尿するようになった。仁王立ちになった夏美の足元に跪いた雅治が、彼女の陰部に口を密着させて尿を飲むスタイルなのだが、一番最初は慣れずに喉につっかえて咽てしまい、かなり床にこぼしてしまった。夏美は烈火の如く怒り、目が眩む程の力強い往復ビンタを雅治に張って、

「男奴隷の分際で、女御主人様のおしっこをこぼすなんて、何事よ!こぼした責任を取って、床のおしっこを全部舐め取りなさい!」

と酷く叱って、命令した。雅治は、両頬が赤く腫れ上がる程の痛みと、強い屈辱感で目に涙を浮かべ、這いつくばって床にこぼれた夏美の尿を舐め取り始めた。床のざらりとした埃の感触と、舌に改めて拡がる尿の刺激的な味が、雅治の屈辱感を倍増させた。しかし、その耐え難い屈辱感が、マゾヒストの雅治を昂らせ、股間のものを硬く屹立させていた。

 雅治は床の尿を舐め終えると、ウエットティッシュで拭いて仕上げをした。雅治が床の清掃を済ませると、夏美は、

「男奴隷、お前は奴隷の行儀作法が全くなってないようだね…女御主人様のおしっこをこぼすなんて、奴隷としてもっての外だわ!お仕置きしてあげるから、仏間にお行き!」

と命じた。

「は、はい、夏美様…」

 脅えた震え声で返事をした雅治は、慌てて立ち上がり、夏美に背を向けて仏間に向かおうとした。その途端、夏美が背中に乗馬鞭の鋭い一撃を浴びせたので、雅治は肉を切り裂く様な激痛に悲鳴を上げ、その場にうずまくった。

「男奴隷、私はお前に、お許しを得ない限り、常に四つん這いでいるように言っておいたわよね!もう、忘れたのかい?それとも、私の言う事なんて馬鹿らしくて、聞けないとでも言いたいの?一体、どういうつもりなのよ?」

 夏美に厳しく問い詰められた雅治は、彼女の足元で土下座し、

「申し訳ございません、夏美様…どうか、この愚かで物覚えの悪い男奴隷を、お許し下さいませ…何とぞ、お慈悲を…」

と必死に哀願した。夏美は、土下座している雅治の頭を足で小突き、

「全く、救いようの無い男奴隷だね…いいから、さっさと仏間にお行き!」

と命令した。

「はい、かしこまりました、夏美様…」

 四つん這いで、出来るだけ急いで仏間に行った雅治は、部屋の中央でひれ伏して、夏美のお仕置きを待った。土下座の姿勢を保っている雅治は、夏美が押し入れのロッカーから何かを取り出す気配を感じていた。

「男奴隷、顔をお上げ!」

 夏美に命じられた雅治は上体を起こし、彼女の右手に握られている一本鞭を見て、恐怖で顔色を変えた。その黒光りする一本鞭は、以前注文したSⅯグッズが届いた際、夏美が色々な種類の鞭を雅治の身体で試し打ちしてみて、あまりにも威力があり過ぎるので、ずっと押し入れのロッカーにしまっていた代物だった。

「な、夏美様、その鞭だけは、お許しを…」

 真っ青になった雅治は、恐怖に打ち震えた声で懇願したが、夏美は、

「お黙り、男奴隷!」

と一喝して右手を振りかぶり、一本鞭を一閃させた。空気を切り裂く音がして、全裸に首輪だけで正座している雅治の体に、一本鞭が絡み付いた。真っ赤に焼けたワイヤーロープを叩きつけられた様な激痛と、内臓まで響く強い衝撃を受けた雅治は、

「グギャワァーッ」

と獣じみた絶叫を上げて、背を仰け反らせ、体を引きつらせて苦しんだ。夏美が又も一本鞭を振り上げたのを見た雅治は、堪らずに逃げようと腰を浮かせたが、一本鞭に打たれた激痛で体が硬直して引きつり、故障したロボットみたいにギクシャクとしか動けなかった。凶悪な唸りを上げて、一本鞭の第二打が雅治を襲うと、彼の体に真っ赤に焼けた鉄棒で殴られた様な激痛と衝撃を受け、又も絶叫が湧いた。雅治は何とか夏美の鞭から逃れようとしたが、気が焦るばかりで、体は鞭の激痛で硬直して、うまく動かせなかった。そこに風を切って、一本鞭の第三打が襲い掛かり、絶叫を上げた雅治は絨毯に突っ伏し、体をピクピクと痙攣させた。

 もう動けなくなった雅治は、

「お許しを…夏美様…もう、どうかお許しを…」

とブツブツ呟くように、夏美に許しを請うた。

「ふんっ、たった三回の鞭打ちで動けなくなるなんて、本当に情けない男奴隷だね…今日はこれ位で勘弁してあげるけど、次に私のおしっこをこぼしでもしたら、体中をこの一本鞭で打ち据えてやるからね!」

 夏美はそう言い捨てると、一本鞭を絨毯に放り、突っ伏したまま動けない雅治を残して、仏間を出て行った。夏美が振るった一本鞭は、ピアノ線を芯にして、なめした牛の本革を編み上げ、先端には鉛玉がしこんである本格的な牛追い鞭で、アメリカの牧場で実際に使用されている代物だった。皮の分厚い牛でさえ逃げ回るのに、その一本鞭で裸の人間を打ったら威力があり過ぎて、高齢の雅治が動けなくなるのは当然だった。もし、夏美がその一本鞭で雅治を打ち続けていれば、ショック死する虞すらあったのだ。

 雅治を鞭打った手応えを十分に感じて、彼の悶え苦しむ姿を見た夏美は、何とも言えない悦楽を感じて機嫌が直ったが、酷く鞭打たれた雅治は、心の底から夏美を畏怖するようになった。今までは心のどこかで、嫁と舅の間柄という甘い考えがあったのだが、それが完全に払拭されてしまった。

 一本鞭で打たれた日から、雅治は喉につっかえようが、咽そうになろうが、命懸けで夏美の尿を飲むようになり、二度とこぼさなくなった。また、夏美が一本鞭によるお仕置きを仄めかすだけで、雅治は心底震え上がり、彼女からのどんな理不尽で酷い命令であろうとも直ちに従う、絶対服従する奴隷になりきった。

 

 夕食を済ませた後にリビングで読書していた夏美は、読み終えた本を閉じて、ハンドベルを手にした。夏美がハンドベルを一振りし、チリンと澄んだ音が響くと、直ぐに首輪を着けた全裸の雅治が四つん這いでリビングにやって来た。夏美は雅治に、

「お前が二回目に差し出した本も、全部読んだから返すわ。なかなか面白かったわよ」

と言って、テーブルの上に積み重ねた本を顎でしゃくった。雅治は夏美の足元でひれ伏し、

「ありがとうございます。卑しい私めの本を気に入って下さり、身に余る光栄でございます」

と礼を述べてから、上体を起こした。

「そうね…「家畜人ヤプー」は設定がちょっと難解だったけど、白人女性崇拝が露骨なのと、主人公が婚約者だった白人女性に鞭打たれて、奴隷所有宣言されるところは面白かったわね…「ある夢想家の手帖から」のシリーズは、マゾヒスト男性の性向が学術風に説明してあり、マゾヒストの嗜好も色々な方向性があることが分かって、興味深かったわ」

夏美が感想を述べると、雅治は嬉しそうに微笑を浮かべ、

「ありがとうございます。夏美様にそこまで読み込んで戴けて、誠に光栄でございます。また別の本を、直ちに持って参ります」

と重ねて礼を述べ、夏美の許しを得て立ち上がり、テーブルに積み重ねた本に手を掛けた。

「ところで、男奴隷、小説の方は進んでいるの?」

 夏美が尋ねると、雅治は、

「ああ、夏美様、申し訳ございません。ご報告が遅れました…つい先程、書き上げたところでございます」

と答えた。夏美は興味深そうな表情を浮かべ、雅治に命じた。

「そう…それなら内容を確認してあげるから、原稿を持って来なさい」

「はい、かしこまりました。直ぐに持って参ります」

 テーブルの本を抱えた雅治は、這ってリビングを出て、自分の部屋に向かった。しばらくして、原稿用紙の束を抱えた雅治が、リビングに這って戻って来た。雅治は跪いて、夏美にうやうやしく原稿用紙の分厚い束を差し出した。それを受け取った夏美は、

「読むのに、かなり時間が掛かりそうね…お前は部屋に戻って、先に休んでいなさい」

と声を掛けて、雅治を自分の部屋に帰した。夏美が原稿用紙にざっと目を通すと、几帳面な性格の雅治らしくきれいな字で書かれており、誤字脱字も全然無くて、かなり読みやすそうだった。夏美がふと壁の時計を見ると、時刻は午後7時半だった。

 

 夏美が雅治の原稿を全て読み終わり、壁の時計に目をやると、時刻は深夜の午前3時前になっていた。

(ふうっ、また夢中になって読んで、時間を忘れてしまったわ…さすがに、もう寝ましょう)

 夏美は原稿用紙の束を持って、自分の部屋に向かった。雅治が最初に差し出した本を、時間を忘れて読み耽ったのと同様に、今回も興奮して原稿を読み耽ってしまったのだった。

 雅治が執筆した小説は、以前彼が夏美に説明したストーリーと全く違っていた。小説のストーリーは…主人公は思春期に自分の性癖がマゾだと気付き、誰にも打ち明けられず、悶々とした青春時代を過ごす。大学を出て就職し、学生時代に知り合った妻と世間体のために結婚して、一人息子も生まれたが、マゾの性癖は矯正出来なかった。月日は流れ、妻は早くに亡くなり、主人公は定年退職して年金生活者となっていた。社会人の一人息子が結婚して、主人公は息子の嫁と同居するようになった。嫁にサディスティンの素質があると見抜いた主人公は、息子が仕事の関係で出張が多く、留守がちなのをいいことに、趣味で書いている小説の題材にするからと、嫁に自分を虐めさせる。最初は嫌々ながら恐る恐る主人公を虐めていた嫁だったが、主人公が巧みに導いて段々とサディスティンの才能を開花させ、次第に興奮して主人公を喜んで酷く虐めるようになる。主人公の想定を超えて、残酷なサディスティンに変貌してしまった嫁は、主人公を徹底的に虐め抜いて、自分に絶対服従する奴隷に仕込み、人間便器にも使うようになる。本物のサディスティンになった嫁は、もう普通のセックスでは満足出来なくなり、出張から帰って来た主人公の一人息子である夫を、今度は嫁が上手くマゾヒストに導き調教して、奴隷にしてしまう。主人公の家は完全に嫁の支配下に置かれ、嫁は夫が出勤中の昼間に主人公を虐め、夜は帰宅した夫を虐めて楽しむ日々を送る…という内容であった。登場人物の名前を現実とは変えていたが、小説と言うよりは、まるで雅治の自叙伝だった。

 原稿を読んでいた夏美は、今まで雅治を虐めて来たことを思い浮かべて、凄く興奮してしまい、時間を忘れて読み耽っていたのだ。夏美は原稿用紙の束を化粧台の上に置き、スエットからパジャマに着替えてベッドに入った。しかし、雅治の小説を読んだ興奮が治まらず、このままでは眠れそうもなかった。この体の火照りを鎮めなければ、とても寝られないと考えた夏美は、濡れている陰部に指を這わせて自分で慰め始めた。

 

 朝7時のアラームで目を覚ました夏美は、寝不足の頭を降ってベッドから降りた。朝の洗顔を済ませた夏美は、パジャマ姿のまま自分用の朝食を多めに作り、8時になるとハンドベルを鳴らして、雅治を呼びつけた。夏美はいつも通り、全裸に首輪だけで床に正座している雅治をおあずけさせて、自分の朝食を済ませた。それからボウルに残飯を入れ、もう一つのボウルに放尿して朝の濃い尿を入れてから、正坐している雅治の前に置いた。

 雅治が朝の餌を食べ終えると、夏美は彼に洗顔して戻って来るよう言いつけた。雅治が洗面所で顔を洗って歯磨きしている間、夏美は洗い物を済ませ、テーブルを拭いてきれいにした。雅治が四つん這いでリビングに戻って床に正坐すると、夏美は自分の部屋から原稿用紙の束を持って来て、テーブルに置いた。

「男奴隷、お前の小説、全部読んだわ…結構面白かったけど、これどうするの?特殊な内容だから、出版社に持ち込んでも、相手にされないんじゃない?」

 夏美が尋ねると、雅治は一旦ひれ伏して、

「夏美様、私めの小説を全てお読み下さり、誠にありがとうございます」

と謝意を述べてから、顔を上げて返答した。

「私めが書いた小説ですが、マゾ男専門の季刊誌を発行している出版社があり、そこは常にマゾ小説の原稿を募集していますので、そこに郵送しようと思っております」

「そうなの…ところで、男奴隷…いえ、お義父さん、もう小説は書き終わったから、奴隷ごっこは終わりですよね?私達は、元の嫁と舅の関係に戻るんでしょう?」

 夏美が意地の悪い笑みを浮かべて尋ねると、雅治はさっと顔色を変え、がばっとひれ伏して懇願した。

「い、いえ、夏美様、実は私めは次の小説の構想を練っております。どうか次の小説の執筆のため、夏美様には引き続き女御主人様になって戴き、私めを男奴隷として扱って下さいませ…何とぞ、お願い申し上げます」

 予想通りの答えに、夏美は笑いを嚙み殺しながら返事をした。

「仕方ないわねぇ…お前がそれ程言うのなら、引き続き男奴隷にしてあげるわ。ところで、お前はまだ面白そうな本を持っているって、言ってたわよね。読んでみたいから、持って来て頂戴」

「は、はい、夏美様、ただ今…」

 雅治は原稿用紙の束を抱え、這ってリビングから出て行った。しばらくして雅治は数冊の本を抱え、リビングに這い戻った。雅治は夏美の足元に跪き、持って来た本を差し出した。

「夏美様、これらは私めが都内の古本屋を回り、苦労して集めた本でございます」

 夏美が数冊の本を受け取って、ざっと見てみると、「奇譚クラブ」「風俗奇譚」「問題SⅯ小説」等、昔のSM雑誌であった。

「ふ~ん、結構古そうな本ね…じゃあ、私は本を読むから、お前は部屋に戻って小説を書きなさい」

 夏美は雅治を部屋に戻すと、台所でコーヒーを淹れ、テーブルに着いて「問題SⅯ小説」から読み始めた。夏美は読みながら、もし雅治が最初からこれらのSⅯ雑誌を持って来たら、読むのは断固として拒否していただろうと考えた。

夏美は昨夜、雅治が書いた小説…と言うか殆ど自叙伝を読み、自分が雅治の手のひらで転がされていたのが分かったが、腹は立てなかった。逆に、自分でも知らなかった嗜虐性向を引き出して、普通のセックスでは味わえない悦楽を感じさせてくれた雅治に感謝していた。夏美は、昔のSⅯ雑誌に掲載されている小説の際どい描写に引き込まれ、時間を忘れて読書に没頭した。

 

雅治が小説を書き上げてから三日後、彼の一人息子で夏美の夫である武志が、マレーシアの海外出張から自宅に帰って来た。夏美も雅治も、さすがに武志の前では普通の嫁と舅の態度で振る舞った。今まで使用していたSⅯグッズは、雅治が仏間の押し入れのロッカーに全てしまい込み、しっかりと施錠した。武志は、自分が出張中に厚い絨毯が仏間に敷き詰められていたのを見て少し驚いたが、雅治が畳の保護のためだと説明して納得した。四週間ぶりに帰って来た武志のために、夏美は台所で腕によりを掛けて御馳走を作っていた。

リビングのテーブルを三人で囲んで、夕食の御馳走に舌鼓を打ちながら、夏美と雅治は武志からマレーシアでの慣習の違いや、多民族間の仲介等の土産話を面白そうに聞いていた。雅治は武志の話を、ふんふんと興味深そうに聞きながら、内心では今まで通りとはいかないが、武志が日中出勤している間は夏美に虐めてもらえるだろうと、密かに考えていた。

夕食が終わり、夏美が台所で片付けと洗い物をしている間、雅治と武志はリビングでビールを飲みながら、スポーツや政治等の世間話をしていた。時間はあっと言う間に過ぎ、雅治はもう寝るからと言って、自分の部屋に戻った。武志も夏美に、そろそろ休もうと言って、夫婦の寝室に誘った。

寝室に入った武志と夏美は直ぐに抱き合い、ベッドへ横になった。何しろ、結婚してまだ半年しか経っていない新婚期間中であり、武志の海外出張で四週間も会えなかったのだ。明かりを消した武志はもどかしそうにパジャマを脱ぎ、恥じらう夏美のパジャマも脱がせた。ベッドでお互いに全裸となり、武志が夏美を抱こうとすると、

「武志さん、ちょっと待って」

と夏美が言って、武志から少し離れた。武志が怪訝な顔をすると、夏美は、

「マンネリになったら嫌だから、私達ちょっと面白いことをしましょうよ…武志さん、うつ伏せになって」

と言い出した。武志は訝し気に、

「面白いことって、何?」

と尋ねながらも、夏美に言われた通り素直にうつ伏せになった。

「武志さん、両手を背中に回してみて」

 武志は首を傾げながらも、言われた通りに両手を背中に回した。すると夏美は、ベッドのマットレスの間に隠していた手錠を取り出し、武志の両手首に素早くガチャリと掛けた。

「な、何をするんだ、夏美?」

 後ろ手錠を掛けられたことが分かった武志は、驚いて跳ね起きようとしたが、その勢いで仰向けになっただけだった。夏美はすかさず武志の顔を両手で挟み、唇を重ねてねっとりと熱いキスをした。

「武志さん、驚かないで…今夜は、私の好きなようにさせて…」

 唇を離した夏美は、甘い声で武志が落ち着くように囁き、彼の股間に手を伸ばした。夏美は、若い武志の猛々しく屹立しているものを柔らかい手で優しく掴み、ゆっくりとしごき始めた。後ろ手錠を掛けられて、最初は驚いた武志だったが、股間の硬く屹立しているものが蕩けるような愛撫を夏美から受け、うっとりと目を閉じた。

しかし、夏美には武志を果てさせるつもりは無かった。武志を射精一歩手前の状態で維持し続ける、焦らし責めに取り掛かったばかりだった。最初は気持ちよくても、その内に射精させて欲しいと武志が必死に哀願するのを、夏美は待っていた。射精を許す条件として、顔面騎乗奉仕やアナル舐め、更には飲尿まで了承させるつもりだった。夏美が尿を飲ませれば、武志は羞恥心と負い目で夏美の顔がまともに見られなくなるだろう。そうやって主導権を握り、武志を徐々に屈服させ、最終的には奴隷にするのが、夏美の目標だった。

この焦らし責めで屈服させるやり方は、雅治が書いた小説の中で、嫁が夫を奴隷調教する方法として詳しく描写していたものだった。夏美は、自分が雅治の小説に沿って動いているのを自覚しながら、武志への焦らし責めを続けていた。夏美は雅治が書いた小説通りに、自分はやがて武志が会社に行っている日中は雅治を虐め、夜は自宅に戻った武志を虐めて楽しむようになるのだろうと、漠然と考えていた。

武志は、まだ夏美の企みに気が付かず、目を閉じたままうっとりと快感に浸っていた。夏美は、硬度を増して屹立しているものをゆっくりとしごきながら、獲物を狙う豹の様に妖しい光をたたえた眼で武志の顔を見下していた。

 

終わり